伊勢湾に臨む野間埼灯台(愛知県美浜町)。その前に白い丸形ポストが1月に、設置された。手がけた地元の人たちは「想(おも)いを照らす灯台ポスト」と名付け、カードを置いた。「3行ラブレター」をつづって投函(とうかん)するよう呼びかけている。いま、あなたが思いを寄せる人へ――。
ポストを立てたのは、まちおこしに取り組んでいる一般社団法人「美浜まちラボ」や町、観光協会などでつくる団体「野間埼灯台ポータル化実行委員会」。
町立布土(ふっと)小学校の教諭でもある実行委の林達之委員長(55)によると、ポストは、郵便局から寄贈されて布土小の敷地内に置かれたままになっていた。1960年製造の刻印がある。
だが小学校には今後統廃合される計画があり、碑のような形でポストを残せないかと教諭らは考えていた。一方、野間埼灯台に置いて、新たなモニュメントとして使いたいとの実行委側の意向もあり、関係先の許可を得て、今回、灯台前の広場に置かれることに。郵便機能がないことを示すため、布土小の児童の手で白く塗られた。
設置の記念として企画されたのが、灯台を訪れた人から「ラブレター」を募り、ポストに投函してもらうアイデアだった。児童による提案の一つだった。
野間埼灯台には、恋人たちが「永遠の愛」を誓って南京錠を掛けるモニュメントもある。実行委では今回の企画を通じ、改めて「恋人たちの聖地」として広くアピールをしたい考えだ。
ポストの脇に置いた専用のカードには、自分と相手の名前(仮名も可)を書く欄と、自分の思いを込めたメッセージを記す横8センチの3行分の余白がある。投函の期間は3月17日まで。
実行委は寄せられたラブレターの一部を選考して公開する。さらに感動的な作品数点には、「灯台半日貸し切りサービス」「プロカメラマンによる撮影」といった特典を用意している。詳しくは、実行委のウェブサイト(https://nomasakitoudaimori.com/archive/cpt_event/620/)へ。
野間埼灯台を巡っては、ポータル化実行委員会が結成されて以来、灯台内部を公開する日を増やすなど、まちおこしの場として「活用」が進む。
1921年にでき、80年代末に無人化された野間埼灯台。ポータル化実行委員会に加わる美浜まちラボが、10年ほど前から内部を公開するよう関係機関に働きかけを続けてきた。その中心、林さんは「名古屋から近く、場所も申し分がないのに『空き家』の状態。過疎化が進む地元の盛り上げにつなげたかった」。
2021年、灯台の管理を海上保安庁が指定した民間の協力団体に委託する「航路標識法」の改正が追い風になった。美浜まちラボが委託先の一つとなったことで、町や地元も巻き込んで一昨年、実行委を結成。管理者として灯台内部の公開ができるようになった。かつては年1、2回だった公開は、昨年4~11月で15回に増えた。多くの人が訪れ、灯台の上からの眺望を楽しんだ。
実行委は、灯台を管理する「現代版の灯台守」として2人を雇っている。その一人、仙敷裕也さん(35)は昨年12月に美浜町に移住してきた。カメラマンの仕事をしながら、春から地元の人たちと一緒にさまざまなイベントを仕掛けていく。
「住んでみて灯台のあるこの地域の良さが改めて分かった」と話す。
灯台では昨年以上に内部公開を増やす方針だ。今年は3月17日に最初の「灯台ホリデー」を開く。
林さんはいま、周辺の店を訪れる人が増えるなど「波及効果」を実感しているという。
「船を導く灯台が、今は人をつなぐ役割も果たしつつある。知多半島を象徴する観光地になって欲しい」(臼井昭仁)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル