記者コラム 「多事奏論」 編集委員・中川透
事件や事故が起きたらまず現場へ。記者の仕事の基本だが、東京電力福島第一原発事故のときだけは勝手が違った。
事故前後の3年あまり、私は福島総局で働いていた。原発で爆発が起き、沿岸部へは近づけない。国の出す避難指示区域が次々と広がる。総局のあった福島市内は電話が通じず取材もままならない。最前線の地にいる身ながら、原発の状況を伝える枝野幸男官房長官(当時)の会見のテレビ中継にかじりつく日々。無力感に包まれ、福島県はこの先どうなるのか、とぼうぜんとしたことを思い出す。
あれから13年。日本がこんなに早く、原発の「最大限活用」へ動きだすとは思わなかった。政府は昨年、脱炭素社会へ移行する「GX(グリーン・トランスフォーメーション)」の実現を理由に、方針転換の戦略を決めた。聞こえのよい言葉だが、ふるさとを奪われた福島の人たちには、どう映るだろうか。
「唐突な原発回帰に驚いた…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル