100年近い歴史を持つ伝統校に、なぜ急成長を遂げた不動産会社の社長らが近づいていったのか。明浄学院高(大阪市阿倍野区)などを運営する学校法人明浄(めいじょう)学院をめぐる21億円の横領事件で、大阪地検特捜部は今月、業務上横領容疑で法人元理事長や東証1部上場の不動産会社のトップら6人を相次ぎ逮捕した。それぞれの複雑な思惑をひもとくと、大阪市内に残された広大な一等地をめぐる長期的な計画が浮かび上がってくる。
■「事実上の買収…」
JR天王寺駅から南東に約1・5キロ。法人が運営する明浄学院高の敷地は、アクセスのよい、閑静な住宅地に広がる。
「交通の便がよく、あれだけ広大な一等地はない」と話す法人の元関係者は、こう強調した。「不動産業者にとっては、よだれが出るほど欲しいはずだ」
学生数の減少などもあり、以前から資金繰りの悪化に苦しんでいた法人。状況を打開するため、外部から登用したのが大橋美枝子容疑者(61)だった。
かつて教育関係の事業に携わっていたという大橋容疑者は平成28年4月に副理事長に就任。その際、18億円に上る資金を持参し、このうち10億円を当時の経営陣に渡したほか、5億円を法人に寄付するなどした。
この18億円は何のための金なのか。関係者は「法人を乗っ取るための、事実上の買収資金だった」と説明する。この巨額資金を用意したのが、不動産会社「プレサンスコーポレーション」(大阪市)の前社長、山岸忍容疑者(56)だった。法人が抱える一等地に着目した山岸容疑者は大橋容疑者に接近。巨額資金で法人経営を掌握させることで、円滑な土地取得の構図を描いたとみられる。
■浮上する還流疑惑
その後、明浄学院高の土地売却計画は加速する。
関係者によると28年12月、法人とプ社は、61億円で高校の土地を売買する協定を締結した。内容は、高校を大阪府吹田市に移転させることを前提に、校舎を解体してプ社が跡地を購入するというもの。ただ、この計画は保護者から強い反発を受け頓挫している。
29年6月、大橋容疑者は理事長に就任。大橋、山岸の両容疑者と面識があったとみられる不動産会社「ピアグレース」(大阪市)役員、山下隆志容疑者(52)も法人理事に名を連ねた。
大橋容疑者らによる法人の実権掌握を機に、改めて浮上してきたのが、高校の土地のほぼ半分を約31億円でピア社に売却し、その資金で老朽化した校舎を建て替えるという計画だった。
29年7月、計画は実行に移され、手付金として21億円が法人に支払われた。資金を用立てたのはプ社。ピア社を介し、最終的に土地はプ社が買い取る予定だった。当時、法人は保護者とのトラブルなどを抱え、悪評が絶えなかったことから、プ社はピア社を介在させることで自社の“色”を薄めようとしたようだ。
その後、大橋容疑者らは手付金21億円を山下容疑者が社長を務める別の不動産会社「ティー・ワイエフ」(大阪市)に還流させ、横領した疑いがある。山岸容疑者の個人口座には約18億円が戻ったとされる。特捜部は、一連の計画は借り入れた18億円の返済を目的に進められたとみている。
■ワンマン経営の末に
信用調査会社などによると、プ社は平成9年の設立後、19年に東証2部上場、25年には同1部へ上場した。分譲マンション供給戸数は30年まで9年連続関西圏トップ。今年3月期の連結売上高は1605億円で、5年前の約3倍に増えていた。
「社長である山岸に権限が集中していた。強いリーダーシップで邁進していた」。事件後に社長に昇格した土井豊・前副社長は23日の記者会見で、業界で「やり手」と称された山岸容疑者の印象を語った。
土井氏によると、社内で法人との土地取引の詳細を知っていたのは、山岸容疑者と主担当だった社員の小林佳樹容疑者(54)の2人だけ。同社では「主担当が社長に直接詳細を説明するのが基本」(土井氏)だったといい、他の幹部は決裁の段階まで計画の経緯を把握していなかった。
今後について「山岸(容疑者)と同じスタイルではなく、みんなとベストな方法を考えながらやっていきたい」と語った土井氏。特捜部の捜査と、弁護士3人でつくる外部委員会に検証を委ねる考えを強調した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース