カジノを含む統合型リゾート施設(IR)事業をめぐる汚職事件で、収賄容疑で逮捕された衆院議員の秋元司容疑者(48)は、東京地検特捜部の取り調べに対し徹底して容疑を否認、特捜部と全面対決の様相を見せている。今後の捜査のポイントは、現金の授受と秋元容疑者から日本でのIR参入を目指していた中国企業「500ドットコム」側への便宜供与があったかどうかだ。
■密室での受け渡し
接見した弁護士によると、秋元容疑者は、勾留されている東京拘置所(東京都葛飾区)で疲れも見せず、元気な様子だという。取り調べは30日以降も午後から夜にかけて行われる見通し。昨年も日産自動車前会長のカルロス・ゴーン被告=会社法違反罪などで起訴=に対し、年またぎで取り調べが行われており、2年連続の越年捜査となる。
逮捕容疑の一つは、IR担当の内閣府副大臣だった平成29年9月、IRへの参入で便宜を受けたいとの趣旨だと知りながら「500」社側から現金300万円を受領したこと。
贈賄容疑で逮捕された同社元顧問の紺野昌彦容疑者(48)らは衆院議員会館の事務所で現金入りの紙袋を直接手渡したと供述。これに対し、秋元容疑者は「お金はもらっていない。2年前のことで、そもそも(紺野容疑者らと)会った記憶もない」と容疑を否認しているという。
賄賂の受け渡しが密室で行われる贈収賄事件は一般的に客観証拠に乏しいケースが多く、立証ハードルが高いとされる。岐阜県美濃加茂市長(当時)は26年、業者から計30万円を受け取ったとして事前収賄などの罪で起訴された。後に最高裁で有罪が確定するが、1審名古屋地裁は「業者の供述は不自然で変遷しており、合理的な疑いが残る」として無罪を言い渡した。
特捜部が昨年起訴した文部科学省幹部の汚職事件では業者から会話内容の録音データを押収していた。ある検察OB弁護士は「今回も供述以外の固い証拠があるはずだ」と推測する。
一方、30年2月、北海道旅行へ家族で招待され、旅費など約70万円相当の利益供与を受けたとするもう一つの容疑については、航空機の搭乗記録や宿泊記録などから旅行自体は明らかだが、秋元容疑者は「秘書に任せていて、こちらで支払っているものだと思っていた」と供述している。
現金より少額だが、ある元検察幹部は「小さく見えるかもしれないが、裏が取れて固いのは旅費。最終的な逮捕の決め手になった可能性もある」と話す。
■有利になる助言も
便宜供与の有無も重要なポイントだ。収賄罪は「公務員(議員を含む)が職務に関して賄賂を受け取ること」が要件で、具体的な便宜供与は必ずしも必要ではない。だが、賄賂を渡す側と受ける側の関係性を示す重要な証拠で、捜査の現場では「便宜のない贈収賄はない」(検察OB)ともいわれる。
「500」社側は30年3月ごろ、IR整備区域の上限を「5カ所にしてほしい」などと秋元容疑者に要望。結果的に3カ所に決まったが、同社が投資を検討する北海道留寿都(るすつ)村でのIR計画が選定される可能性を高めるのが狙いとみられている。
秋元容疑者は逮捕前の取材に「(便宜は)何もしていない」と繰り返し強調していたが、特捜部経験のある弁護士は「上限枠のような重要な決定権限がなくても、他社より有利になるようなアドバイスや内部情報を提供するだけで便宜とみなすことはできるだろう」と話す。
■「IR手掛けたい」
インターネット上でスポーツくじなどの事業を展開する「500」社は27年から、中国当局による規制強化で国内の主要業務を停止し、業績が悪化。回復に向けて活路を求めたのが日本のカジノ事業だった。29年7月に日本法人を開設したが、既に他国の大手カジノ事業者が先行して各自治体へアプローチ。劣勢を巻き返すために近づいたのが、IR推進派の秋元容疑者だったとみられている。
同社は紺野容疑者とコンサルタント契約を締結。紺野容疑者らは29年11月以降、少なくとも3回は秋元容疑者の執務室である国土交通省副大臣室などを訪れ、「IR事業を手掛けたい」と伝えていたという。
同社は29年8月、副大臣内定を受けて秋元容疑者のシンポジウム講演料を4倍の200万円に増額。同年12月には秋元容疑者の中国本社視察の渡航費を一部負担した疑いがある。
元検事の落合洋司弁護士は「現金300万円や旅行代70万円は国会議員の立件には十分な金額だが、特捜部は積み増しを図るだろう」との見方を示した。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース