重篤な患者を24時間体制で診療する集中治療室(ICU)。無機質な部屋にさまざまな治療機器が並んでいるのが一般的だが、患者がリラックスできる空間に様変わりさせようという試みが奈良県立医科大付属病院(同県橿原市)で進められている。外の景色を4Kパネルでリアルタイムに表示する「疑似窓」や、落ち着いたインテリアと癒やしの音楽を流す「コンセプトルーム」を整備。ストレスを軽減し、患者の免疫力アップにつなげるのが狙いだ。(桑島浩任)
県立医大麻酔科学教室の川口昌彦教授は、入院が長引けば患者の身体・認知機能が次第に低下していく傾向にあるということに着目し、病院環境を改善する取り組みを進めているが、その一例が疑似窓とコンセプトルームだ。
疑似窓は43型の4Kモニター2枚を並べ、縦約120センチ、横約100センチのサイズの窓を再現。屋外の8階に設置されたカメラで撮影された空や街の映像が、リアルタイムで表示される。
4Kで撮影された映像は、遠くを走る車が確認できるほど高精細。ベッドに横になったままでも見やすい高さに設計されている。ICUにも窓はあるが、ベッドに寝たままでは外が見えず、そもそも同病院の場合、窓から見えるのは向かいの建物の壁になる。川口教授は「体が弱っていくのを防ぐには、患者の五感に刺激を与えることが重要」と疑似窓に期待される効果を指摘する。
一方、落ち着いたインテリアと壁に描かれた鮮やかなイラストが特徴的なコンセプトルーム。ICUのうち1つの部屋を改装した。患者や家族はもちろん、医療従事者のストレスを軽減させる視点も盛り込んでいる。
ICUには多くの医療機器がある。ストレスを感じさせないようにするには、機器類の見た目の威圧感を和らげたり、作動音が気にならないようにしたりする工夫が必要で、コンセプトルームでは医療機器が使い勝手を損なうことなく患者の視界に入らないよう配置され、気持ちを穏やかにさせる音楽が流れている。
「無機質な空間を何とかしたいという思いは昔からあったが、自分たちだけではできなかった」と西浦聡子看護副部長。デザイナーの武沢恵理子さんがコンセプトルームを監修した。
武沢さんによると、気分の浮き沈みは色彩によって左右されるといい、「色彩が持つ力は医療現場で笑顔を作ることができる」と強調。「色彩を活用し、患者をケアする取り組みは国内ではまだまだ浸透していない。今回の試みを通じ、医療の質の向上に貢献できれば」と話している。
【関連記事】
Source : 国内 – Yahoo!ニュース