川崎市の多文化交流施設「市ふれあい館」(川崎区)に在日コリアンの虐殺を予告する脅迫はがきが年賀状として届いた事件を巡り、人種差別撤廃に取り組む非政府組織(NGO)の「外国人人権法連絡会」は21日、政府と市に対して、ヘイトスピーチ・ヘイトクライム(差別に基づく犯罪)を厳しく非難するよう求める声明を発表した。「社会全体で声を上げることで差別の被害者を励まし、差別をやめさせる責任を持つ政府や市の対応を後押ししたい」とインターネット署名も募り、開始数時間で600人を超える賛同が寄せられている。
声明では、政府と市に対して、直ちに今回の脅迫状を強く非難し、ヘイトスピーチ・ヘイトクライムを決して許さないとの声明を出すことを要請。市には同時に、同館の入り口に警備員を配備するなど市民の安全を守る具体的な対策を取ることを求めている。警察には、犯人の逮捕に全力を挙げることを求めた。
2016年7月、虐殺予告が実行され、戦後最大のヘイトクライムとされる、相模原市緑区で起きた障害者殺傷事件を例に「物理的な暴力犯罪が行われる危険性も看過できず、国と市は犯罪抑止、市民の安全確保に全力を挙げるべきだ」と警鐘を鳴らした上で、「国と市は市民を差別から守り、差別を根絶すべく先頭に立ち、毅然きぜんとして対処すべきことが求められている」と強調している。
同館は日本人と在日コリアンなどの外国人市民が交流し、共に生きる地域社会を築くために市が開設した。利用者や職員にはさまざまなルーツを持つ市民が多い。声明では、年賀状が届いて以降、利用者が減少していることから「この脅迫状は、多文化共生業務を妨害する犯罪行為(威力業務妨害罪)であることが明らか」と指摘している。
声明では、年賀状の文面は日本も加入する人種差別撤廃条約やヘイトスピーチ解消法、昨年12月に制定された川崎市差別のない人権尊重のまちづくり条例に定義する不当な差別的言動に該当するとも指摘。
同NGOのメンバーである師岡康子弁護士は「条例ができ、在日コリアンの市民が『ようやく守られるべき市民として認められた』と喜んでいたところに冷や水を浴びせる卑劣な行為。在日コリアンを『地域社会に共に生きる市民ではない。殺されてもいい存在』と記して恐怖させ、孤立させる悪意に満ちた内容だ」と非難。「放っておけば、同じことを言っても構わないという害悪が広がる。社会全体で声を上げる必要があり、一番責任を持つ国は解消法に照らして啓発活動として抗議し、市は条例に基づき非難声明を出してほしい」と訴えた。
ネット署名「change.org」には「『単なるいたずらだろう』などと軽視していると、やがて現実に事件が起こりかねない」「『差別は暴力であり犯罪である』ということを周知させるためにも、関係する各機関の正しい対応を求める」「黙っていることは容認と同じ」「差別と戦う川崎市長にエールを」といった声が賛意とともに書き込まれている。
◆川崎市ふれあい館に届いた脅迫年賀状
「川崎市ふれあい館御中」と宛名書きされ、「謹賀新年在日韓国朝鮮人をこの世から抹殺しよう。生き残りがいたら、残酷に殺して行こう」と書かれていた。筆跡を隠すためか、定規を使ったような角張った文字が使われている。年末年始の休館があけた4日に同館職員が気付いた。市人権・男女共同参画室によると、4~16日の13日間の利用者数は前年の2189人から508人減った。減少分の大半は子どもだった。同館では川崎臨港署の指導に従い、出入り口の一つを閉鎖したり、カーテンを閉めたり、夜間の職員を増員するなどの対応を取っている。署も同館周辺の巡回パトロールを強化している。
神奈川新聞社
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