「100年に1回」の確率で3メートル以上の津波が太平洋沿岸の71市区町村に到来する-。政府の地震調査委員会が24日に公表した南海トラフ地震に伴う津波の確率。被災が想定される自治体の住民が、人生に1度は大津波に被災する可能性が高いことが示された。ただ各自治体はこれまで最大級の巨大地震などを念頭に津波対策を進めている。新たな防災指針を関係者は冷静に受け止める一方、「どう活用すればいいのか」といった困惑の声も上がった。
■「対策変わらない」
過去の試算で沿岸部を中心に最大で20~30メートルクラスの大津波が到来することが想定されていた高知県。今回、県内の10を超える市町で、3メートル以上の津波が30年以内に到来する確率が「100年に1回」に相当する26%以上とされ、10メートル以上の津波も、9市町で「100~500年に1回」にあたる6%以上26%未満という数字が示された。
これまで最大で34メートルの津波が到来するとされていた黒潮町では、役場を高台に移転。ほかの市町でも同様の対策が進む。さらに、高台や避難施設がないエリアを中心に、避難用のタワーを建設。県内で119カ所を整備する計画で、111カ所が完成している。
今回の公表に県の担当者は「これまでの対策が大きく変わるということはない」としつつ、「この数字をどう活用するのか、明確にしてほしい」と訴えた。
同様に、多くの沿岸自治体で3メートル以上の津波が来る確率が26%以上とされた三重県。独自に作製した津波の浸水想定マップをもとに各自治体がすでに対策を進めており、今回の公表は「あくまで参考程度」と受け止める向きが強い。
熊野市では最大17メートルの津波に対応できるよう、市内2カ所に避難タワーを設置してきた。市の担当者は「確率を示すことがどこまで役に立つのかよくわからない。むしろ数字だけが独り歩きして、『6%だったらリスクは低い』などと誤った意識を持つ市民がいないか心配だ」と指摘した。
■想定以上の津波は
和歌山県の那智勝浦町は今回、3メートル以上は6~26%未満または26%以上、5メートル以上は6%未満または6~26%未満、10メートル以上は6%未満と想定された。
町はこれまで国の最大想定ではなく、県が独自に設定した「最大8メートル」の津波被害想定に基づいて対策を進め、従来は9地区あった避難困難区域を6地区まで減らした。堤防のかさ上げや耐震工事も進み、令和6年度中には全地区で避難困難区域が解消される見通しだ。町の担当者は「これまでの想定より低い津波が来る可能性が高まったとしても、従来通りの対策を進めるだけ」と強調する。
ただ今回、県の設定を超える10メートル以上の津波が来る可能性も示された。町の担当者は「ハード面の対策には限界がある」、県の防災担当者は「携帯電話や防災無線を活用した速やかな避難呼びかけなど、ソフト対策を強化するほかない」と話した。
■「説明聞きたい」
ほぼ全域で3メートル以上の津波が「6%未満」とされた大阪府。担当者は「これまで取ってきた対策を変えることは考えていない。まずは国からの説明を聞いた上で検討したい」と慎重に受け止めた。
府はこれまで、南海トラフ地震の30年以内の発生確率が「70~80%」という予測に基づき、最悪の場合には計13万人以上の死亡者が出る可能性があるとして沿岸自治体や住民に津波対策を呼びかけてきた。
「南海トラフ地震が起これば、高い確率で津波が起こる。速やかに逃げてほしいと住民に呼びかけているが、今回の6%未満という数字を住民がどう受け取るのか」と担当者。数字の意味合いや対策にどう反映させればいいのか、国に確認したいという。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース