クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス号」が横浜港に入ってから1週間、船内では環境の改善を訴える声が高まっている。
9日、船内には食料や飲料水、生活用品のほか、緊急性の高い500人分ほどの医薬品などが積み込まれた。昼と夜の食事については3品から選べるようになったほか、替えのシーツや枕なども支給されるようになったという。そして、延長分の宿泊代を含めたすべての旅行代金を、クルーズ船の運行会社が全額負担する報告がなされたことで、乗客たちには安心が広がった。
一方で、部屋から出られない心理的なストレスや体調面の不安は残る。バルコニーがある部屋の乗客は部屋から出られず、バルコニーがない部屋の乗客は船内の散歩が許されたものの、ブロックごとに順番が決められている。そんな乗客のストレスによる不安を解消するため、運行会社はカウンセリング窓口を設置した。
検体検査で陽性と診断された夫が下船し、自身は検査を待っている女性は「(代金賠償は)少し気持ちが楽になったけど、本当の安心ではない。(夫が下船して)寂しいですけど、もう辛抱する、我慢するしかない。いま平常心で待っているが、荷物も全部整理して、もし検査で陽性になったらすぐ病院に行けるようにしている。19日に皆さん下船する予定だが、私は濃厚接触者で主人の感染が確認されてから14日を計算するというニュースも見て、19日に帰れるのかなどを考えている」と話す。
臨床心理士で心理カウンセラーも務める明星大学准教授の藤井靖氏は「乗客の方々の日々の生活は想像を絶すると思う。そんな中で、資産の有無に関係なくお金のことは当然ストレスになるので、代金賠償が確定したことは一つの良い材料だ。また過去に感染症のパニックが起きた時に相談窓口が機能した事例もあり、カウンセリング窓口の設置も乗客の心理的健康を守るために役立つだろう」と評価。一方で、船内に長期間留まる状況は「大げさな話ではなく命の問題にもつながりうる。感染拡大を防ぐという意味でこうした措置がとられているが、いわば監禁状態に近いと思うので、いかに心身の安定を保ち人命を守るかを考えていかなければならない」と懸念を示す。
こうした状況では、刑務所など自由がきかないような状況に置かれた時に起こる、幻覚や妄想などの「拘禁反応(拘禁症、プリゾニゼーション)」が出る恐れがあるという。
「船内は刑務所ではないが、自由が阻害されているという意味では同じ。精神的な影響は大きく2パターンで、幻覚や妄想、過度な興奮状態になったりする“普段はないようなものがある状態”と、無気力になったり意欲がなくなったり(抑うつが強まったり)する“普段あるはずのものがない”という両方がある。心理学における人の感覚遮断に関する実験では1日以内でも起こりうると言われていて、他の例だと病院でも入院による環境の変化で心身の状態が一気に変わって、ないものが見えたり聞こえない音が聞こえたりという精神的な変化がしばしば起こる。加えて、睡眠が阻害されたり情緒が不安定になることもある。そのあたりは非常に心配だ」
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース