原発賠償金を追う⑤
原発事故の直後、「とにかく早く」と賠償金の支払いを進めた東京電力。だが、その姿勢に内部関係者は変化を感じるようになった。
被災者は東電に賠償金を申請し、東電は国の指針にもとづき賠償額を示す。被災者がその金額に納得しない場合は国の原子力損害賠償紛争解決センター(原発ADR)に仲裁を求めることが出来る。住民側は時間や費用がかかる裁判に訴えなくても、早く結論が出るメリットがある。
拡大する東電側が不正請求をした疑いのある企業に送付した書面。「本件は刑事事件となる見込みが極めて高い」とある
2019年6月30日時点で申し立ては約2万5千件、うち和解成立は約1万9千件、和解手続き中は約1千件に上る。
ただ、原発事故から7年となる18年からセンターが示した和解案を東電が拒否し、センターが手続きを打ち切る動きが出始めた。住民の集団申し立てを中心に昨年6月までに47件、少なくとも2万2千人に上る。
こうした東電の姿勢は国会でも批判され、安倍晋三首相は昨年2月の衆院予算委員会で「誠実に対応することは(東電の)当然の責務だ。経産省からしっかりと指導させたい」と答弁。東電ホールディングスの小早川智明社長は3月に国会に呼ばれ、「被災者の方々の個別の御事情を丁寧にお伺いしながら適切に対応してまいる所存でございます」と釈明した。だが、その後も東電によるADRの和解案拒否は続く。
どこで潮目が変わったのか。
元社員のヤマザキは「支払いがスムーズに流れ出した頃、12年の冬くらいでしょうか。ノルマが達成され始めると、上層部も何も言わなくなります。審査を厳しくしようという方向に徐々に変わって行きました」と話す。
賠償担当だった別の元社員も「…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル