社会参加を果たそうとする「チャレンジド」(米国発祥の障害者の新呼称)が増えている。令和元年の雇用障害者数(民間企業)は前年より2万5839人増えて56万608人(厚生労働省)と過去最高を更新。一昨年4月に企業の法定雇用率が2%から2・2%に引き上げられた影響で、障害者の雇用促進・安定を図るために設立される「特例子会社」という就業の受け皿が広がっている。企業側にとっては障害者の採用が親会社と企業グループの雇用率に反映されるというメリットがあり、障害の特性が仕事によっては強みになる場合もあるという。そんな職場の今をリポートする。(重松明子)
東京都西東京市の「SOMPOチャレンジド」は、SOMPOホールディングスの特例子会社として一昨年4月に設立。現在、知的・精神障害者42人が働き、3年後には100人体制を目指す。仕事は損保ジャパン日本興亜などのグループ会社から受託した業務だ。取材当日には、来年就職予定の特別支援学校生のインターンシップが行われていた。
資料をPDF化する作業。「スキャンできましたか? 原本と違いがないかチェックしてください」。指示された女子生徒が書類を凝視して「大丈夫です」と答える。
「知的・精神障害者は臨機応変な対応が苦手な半面、定型化された作業は黙々とやってくれる人が多い。健常者が見逃してしまった間違いに気付いてくれたこともある。これは強みです」と総合企画部の上田展裕課長(55)。
インターンの山下華香さん(17)に卒業後の進路希望を尋ねると「福祉(介護)か事務かで迷っています。色々な職業を体験させてもらいたい」と意欲的。渡邉祥太朗さん(17)は「パソコンが好き。カフェの接客にも興味がある。でも、朝から夕方まで働くのは疲れる」。職業体験3日目の感想を正直に話してくれた。
グループ会社から受注した書類の照合や仕分け、データ入力などを行う知的・精神障害の社員は1年契約更新(正社員登用制度あり)で、原則午前9時~午後5時(休憩1時間)勤務。週休2日制で基本給14万~16万円。
入社2年目の男性(45)は、以前は健常者として職を転々としたという。「今、こちらで働かせていただき肩の荷が下りました。社交不安障害を持っていまして、人と接すると汗だくになって、辛かったことは…」
「話しづらかったら無理に話さなくていいから」。サポーター社員の足立吉央さん(25)が待ったをかけた。
精神保健福祉士などの資格を持つ専門職。「人間関係が苦手ゆえに突然の取材に対してしゃべり過ぎ、無理をしているように見えた」。サポートで大切なのは、個々の特性を理解し信頼関係をつくっていくことだという。
特例子会社には「親会社との緊密な人的関係」が求められ、これまで障害者と接点のなかった“損保マン”の出向も多い。インターン運用を担当する佐藤真吾課長(59)もその一人。「障害者への理解は実際に接することで進む。仕事を発注している側の社員たちも、ここまでやってくれるんだと驚きと感謝を持ってみている」と好影響を語った。
そのうえで「配慮は必須だが、腫物に触る態度は禁物。一般社会に参加したくて『作業所』ではなく『企業』に入ることを選んだ人たちなんだから。厳しさも自覚してもらいます」。同社では障害者雇用のノウハウを蓄積し、知見をグループ全体で共有する方針だ。
昭和62年、障害者雇用促進法の改正により法制化された特例子会社はここ10年で倍増し、令和元年6月時点で517社にのぼる。
内臓疾患による障害を持ちながら有名大学を卒業した長女(24)が特例子会社に入社、知的障害の次女(22)が自宅から数駅先のスーパー銭湯でパートをしている男性会社員(54)にも話を聞いた。
「特例子会社は親会社が大企業なので安心感がある。長女は都心で一人暮らしも始めた。次女の場合は、体は健康だが勤務先に1日4時間勤務と制限されており、もっと働けるのに残念。特例子会社に就職してほしいが、郊外の地元では採用枠が少ない」
筆者は、特例子会社に障害者雇用を集約するのは、多様性社会の推進と矛盾するのではないかとも感じる。そう水を向けると「すべての職種・職場で障害者に配慮できるか、それは無理。労使双方に都合が良い仕組みですよ」。理想と現実のはざまで、正解は見えにくい。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース