高齢者の運転免許証の自主返納が進む中、喫緊の課題となるのが返納後の高齢者の「生活の足」の確保だ。解決に向けて自動車を活用した取り組みを支援しようと、トヨタ自動車が設立したトヨタ・モビリティ基金は、全国29件への助成事業を始めた。事業終了後もビジネスモデルとして継続可能とされた取り組みは、中山間地や郊外での参考になりそうだ。(石川有紀)
■移動販売300軒
山口県と島根県の県境にある中山間地域の山口市阿東地区。移動販売の軽トラックが到着すると、高齢の住民が集まってくる。
「調子はどう? 風邪はよくなった?」。食材や総菜が並べられた荷台を前に、若い男性スタッフが客の体調を気遣い、注文を聞く。住民と子や孫世代のスタッフとの会話は、買い物が済んでもしばらく続く。
移動販売車は、地元でミニスーパーを営むNPO法人「ほほえみの郷トイトイ」が8年前から運営。訪問先は年々増加しており、昨年には2台目を導入、約300世帯を週2回巡回する。
地区の人口に占める65歳以上の比率は5割を超えるが、公共交通機関は2時間に1本ほどのJR在来線と、幹線道路を走る路線バスのみ。近年は「免許を返納し、近隣の友人宅を訪ねられなくなった」「バス停まで歩けなくなった」と切実な悩みが出始めた。
法人の高田新一郎事務局長は「この地域では、1人が免許返納すれば、共に行動する仲間も通院や行楽などの移動手段を失う」と、孤立化を懸念する。
そのため、法人では3月から移動販売車を使った近距離の送迎サービスを開始。巡回に合わせて事前予約で受け付ける。スーパーや弁当配食などの事業で活動を成り立たせ、移動支援は無料にする意向だ。
■回数券でタクシー
一方、福島県郡山市のタクシー会社「郡山観光交通」は、郊外の住民向けに回数券制で乗り合いのジャンボタクシーを使えるプランを今春から販売する。
市郊外の安積(あさか)、三穂田両町を対象に、10~15キロ離れた市役所や病院、商店街とを平日6往復。回数券は購入枚数に応じて割引き、1枚あたり909~1250円で普及を図る。
山口松之進(しょうのしん)社長は「マイカーをタクシーに置き換えてもらえれば、家族は送迎の負担なく、高齢者は外出を楽しめる。業界も売り上げを確保して地域の雇用を守れる」と話す。将来的には通院から行楽まで、定額乗り放題のタクシー利用を定着させたい考えだ。
トヨタ・モビリティ基金がこれらの取り組みを助成する背景には、社会貢献とともに自動車が次世代でも使い続けてもらう狙いがある。交通政策などに詳しいグローカル交流機構の土井勉理事長は「人口が減少しても、移動が増加すれば地域の活力は持続する。移動手段を確保することが、住民の買い物や行楽など移動の動機となり、地域の商業や観光振興につながる」と話している。
地方で顕在化している高齢者の移動の問題は、免許返納や高齢者の一人暮らしの増加、人口減少による公共交通機関の統廃合などが背景にあり、今後大都市圏周辺にも広がるとみられている。
国立社会保障・人口問題研究所の推計によると、平成27年からの30年間で、全都道府県で総人口が減少する一方で、65歳以上人口が増加する。全国の市町村と東京特別区を合わせた計1682自治体のうち、65歳以上人口が50%以上の自治体数は、27年は15だったが、令和27年には全体の3割近い465に上る見通し。また、東京都や神奈川県などの都市部でも、65歳以上人口が1・3倍に急増するとされる。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース