安倍晋三首相は2月29日からの4カ月足らずで計9回の記者会見に臨んだ。新型コロナウイルスをめぐり、感染状況や政府の取り組みを説明するためだ。それぞれの記者会見で、首相はどのようなメッセージを込めたのか。緊急事態宣言の全面解除から25日で1カ月たつのを機に、異例の頻度で行われた首相会見を振り返った。 「今からの2週間程度、国内の感染拡大を防止するため、あらゆる手を尽くすべきだ」 首相は2月29日の記者会見でこう述べ、すでに行っていた一斉休校やイベント自粛の要請について理解を求めた。 首相が新型コロナ対策を説明するため記者会見を行ったのはこれが初めて。令和2年に入り、ぶら下がり形式で記者団に発言する機会はそれまで計14回あったが、それぞれの時間は短く、質問を受け付けないケースも多かった。 正式な記者会見で説明を求める声が高まり、首相は2月29日以降、おおむね2週間に1回のペースで記者会見を重ねる。 2回目の3月14日は改正新型インフルエンザ等対策特別措置法が成立した後の会見だったが、この時点では緊急事態宣言による私権制限を警戒する声もあった。このため記者会見は、首相が慎重に宣言発令を判断することに説明の力点が置かれていた。 首相の危機感は3回目となる3月28日の会見で一気に高まる。世界の感染者が50万人を超え、東京五輪の延期も決まっていた時期で、国内での感染拡大のスピードがピークを迎えていたことが後に判明している。首相は国民に対し、「最大限の警戒」を求め、長期戦を覚悟するよう迫った。後から振り返れば、首相は適切な時期に適切なメッセージを発していたことになる。 ■「戦時宰相」の演説 9回に上った会見の中で、首相が最も力を入れたのが4月7日に行われた4回目の会見だったとみられる。東京など7都府県に緊急事態宣言を発令した日だった。 首相はフランクリン・ルーズベルト米大統領が大恐慌時の1933年に行った演説の「最も恐れるべきは恐怖それ自体です」という言葉を引用し、政府にできることの限界を率直に語った。そのうえで接触機会7、8割減への協力を呼び掛ける姿は、有事にあって国民を鼓舞する「戦時宰相」ともいえた。 だが、その後、政府の対策は迷走する。 減収世帯に対する現金30万円給付に公明党などから異論が出て、1人あたり一律10万円給付に方針転換した。歌手、星野源さんの歌に合わせて首相が自宅でくつろぐ動画も揶揄(やゆ)の対象となってしまった。17日の記者会見で、首相は現金給付をめぐる混乱を謝罪した。会見で「国民の皆さまに心からおわびしたい」と語ったのは、事前に事務方が用意した原稿ではなく、首相自身が用意した言葉だった。 ■反転攻勢の機会 首相周辺が反転攻勢に期待をかけたのが6回目となる5月4日の会見だった。緊急事態宣言は同月31日まで延長されたものの、ゴールデンウイークの人出は抑えられ、34県では外出自粛や施設使用制限を一部緩和した。やっと見えた明るい兆しだった。首相は新規感染者数が減少したことを「成果」と述べ、協力した国民に感謝した。 しかし、会見終了後、政府高官は「首相の会見、ツボにはまってなかったな。もっと解除に向けての希望を持てるような演説にするべきだと思ったけど…」と表情がさえなかった。政府内には全国一律の宣言延長に慎重な意見もあったが、あまりに前向きな側面を強調すれば、国民の警戒心が緩む恐れもあった。…
4 ans Il y a