パイプ椅子に腰かけた片山和成(かずなり)弁護士(47)は、隣に座った男性(39)に尋ねた。
「こんなこと言うてないよな?」
兵庫県内の警察署の取調室。男性の手元には、目の前の警察官から手渡された供述調書があった。任意の取り調べを踏まえ、「男性の発言」としてまとめたものだ。
片山弁護士が取り調べの最中、受け答えの内容を書いていたメモと照らし合わせると、それと異なる部分が次々と見つかった。
「これはあかん。こんな調書ができてしもたら罪を認めたことにされるで」
「逮捕のリスクは高まるかもしれへんけど、サインしないで帰るのも手やで」
片山弁護士がそう告げると、男性は言った。「ねじ曲がった調書ができるぐらいなら……」
署名をすれば、その供述調書は法的な効力を持ち、意図に反する内容でも裁判の証拠になりうる。男性はサインをせず、片山弁護士とともに警察署を離れた。
取り調べが始まって3時間が過ぎていた。
それから何度か任意の事情聴取があり、最初の聴取から半年余り。事件は検察に送られていた。片山弁護士が神戸地検に進捗(しんちょく)を問い合わせると、「不起訴にした」と知らされた。
異例の「弁護士立ち会い」の結末だった。
突然の家宅捜索、そのまま警察署へ
男性が県警から自宅の捜索を受けたのは、2018年11月のことだ。
示された令状の容疑は銃刀法違反。実際の拳銃によく似た金属製の「模造拳銃」を持っていた、というものだった。
7人ほどの警察官は捜索の最中、「ないなあ、ないなあ」とつぶやいていた。
警察が捜していたのは、男性がその2年ほど前にネットオークションで売りに出したモデルガン。実物はすでに手元になかった。
警察官は数時間の捜索で無関係のエアガンなどを押収すると、そのまま署で取り調べに応じるよう求めた。
男性は司法書士で、片山弁護士のことを以前から知っていた。電話で相談すると、署に付き添ってくれることになった。
午前10時半。2人が署で落ち合うと、片山弁護士は「弁護人選任届」を提出し、取調室に向かうエレベーターに同乗した。
「先生もですか?」
警察官は首をかしげた。
日本では警察や検察が取調室に弁護士を入れることはまずありません。近年、そこに変化をもたらそうとする弁護士たちの動きがあり、捜査側とのせめぎ合いが起きています。記事後半では、7時間にわたって自白を迫った警察の取り調べの音声動画を紹介します。
「私は……」 一人称で始まる供述調書
片山弁護士は「友人なんで…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル