未明の公園。暗がりで突然、背中を蹴られた男性(47)は、倒されながらも、ショルダーバッグを両手で抱え込んだ。
男性が必死に抵抗するなか、若い男が背後からバッグをちからずくで奪い取ろうとする。もう1人の若い男の足元に、男性の顔が無防備にさらされた。この男は、男性のあごを狙い、右足の甲をサッカーのシュートのように振り抜いた。顔面キック。男性から流れた血は、男の靴を赤く染めた。
公園で襲われた男性「おやじたかっても何にもならんぞ」
「おやじたかっても何にもならんぞ」。鼻骨や肋骨(ろっこつ)を折られながらも、こう言ってなお抵抗を続ける男性の口を1人がふさぎ、もう1人がバッグのひもを引きちぎる。バッグは奪われた。中に現金約3万円が入っていた。
昨年10月、福岡市中央区で起きた路上強盗事件だ。2カ月後、強盗致傷容疑で逮捕されたのは、男子高校生の2人(いずれも当時3年、18歳)だった。「特定少年」として匿名での発表だった。
今年3月、福岡地裁で裁判員裁判が始まり、特定少年2人の素性や事件の背景がおぼろげながら見えてきた。
記者2年目で事件や高校野球を担当してきた私(24)にとって驚きだったのは、暴力行為を主に担い、顔を蹴ったのが、数カ月前までグラウンドで懸命に白球を追いかけていたはずの高校球児だったことだ。昨夏、どこかの球場で見かけ、あるいは取材していたかもしれなかった。これまでひたむきに野球に打ち込んできたはずなのに……。
強盗犯の1人は元球児 数カ月前まで白球を追っていた
元球児は進学先でも野球を続ける予定で、この事件を起こすまで非行歴も犯罪歴もなかったという。彼はなぜ犯罪に及んだのか。いつ一線を越えたのか。なぜ顔を蹴るような無情な暴力がふるえたのか……。知りたいことはたくさんあった。
裁判で明らかになった経緯はこうだ。
元球児は3年の夏に高校野球から引退し、自ら希望して寮を出て実家暮らしに戻った。その後、今回一緒に事件を起こした小学校時代の同級生とよく夜遊びをするようになった。
「部活を引退し、寮を出て生…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル