2018年、山口県で行方不明となった2歳の男の子を無事救助し、一躍時の人となった尾畠春夫さん。大分県日出町在住の80歳だ(2020年1月時点)。
“スーパーボランティア”として脚光を浴びた尾畠さんだが、その活動は昨日や今日に始まったことではない。50歳で由布岳の登山道整備をはじめて以後、さまざまなボランティア活動に参加。東日本大震災をはじめ、数々の被災地にも足を運んでいる。
後編では、2018年に一変してしまった生活に戸惑いつつも、自分らしいボランティア人生を追求する尾畠さんの姿を追う。“長年の夢”だったという東京~大分約1100km徒歩の旅の意図と、その行方は?
「2018年は、スーパーボランティアがなければ最高にいい年だった」
2018年、山口県で行方不明となった2歳の男の子を無事救助して以降、尾畠春夫さんの生活は一変した。“スーパーボランティア”と呼ばれるようになり、自宅にはテレビや新聞、雑誌などの報道関係者のほか、人生相談にやってくる人などが押し寄せた。
その一つひとつに対して、尾畠さんは丁寧に応じた。その結果、自分のペースが保てないことしばしば。夜中までテレビ局の撮影に付き合わされたこともあった。
出版依頼も相次いだ。しかし、依頼の手紙を読み上げる尾畠さんは冷静そのもの。
「『ぜひ尾畠さまのこれまでの人生の歩みを書籍という形でまとめ、多くの読者とこの励まされた気持ちを共有させていただけませんでしょうか……』書く気はないです、こんな時間があったらボランティアに行きます」(尾畠さん)
一変した生活に、尾畠さんは戸惑い、ストレスを感じていた。
「想定外でしたね。報道関係の方、雑誌社の方、ラジオ局の方、いろんな方に、私はどうぞいいですよって言ってたんだけど、しなきゃよかったな。会わなきゃよかった人に、いっぱい会って。自分で掘った墓穴だけどね」
2018年12月末には、「2018 ユーキャン新語・流行語大賞」に「スーパーボランティア」がトップテンに選出された。しかし尾畠さんは、常々「わしはスーパーでもコンビニでもない」というジョークで、その名をやんわりと拒否してきた。
尾畠さんは受賞を辞退。華やかな表彰式が行われたその日、尾畠さんは静かに過ごすため自宅を離れていた。
どこか疲れた表情で、尾畠さんは2018年をこんな風に振り返った。
「スーパーボランティア。あれがなかったら、最高にいい年だったな。あんなにノイローゼになることもなかっただろうし。もし万が一、次に同じようなことがあっても、今回みたいな対応はしないと思う。子どもたちにももう心配かけたくないし…」
2018年の年の瀬、尾畠さんが訪れたのは由布岳だった。夏以降、多忙を極めたこと、また精神的な疲れにより、登山道整備にはほとんど来ることができなかった。
美しく雪化粧した山道を歩きながら、尾畠さんにいつもの笑顔が戻ってくる。「きれいやねぇ、これ見て。真っ白」と、心底うれしそうな表情。
「つまずいたときでも、自然が教えてくれたことが頭をよぎるんですよ。自然の中に身を置くことは、大切だなと思いますね」
冬になれば雪が積もり、梅雨など雨量の多い時期には土砂災害が起こる。自然が教えてくれるのは、そのあらがえなさだ。
「来年は『無』という言葉を願っているんですよ。あんまりいいこともなくてもいいから、自然の大災害は起きてほしくない」
Source : 国内 – Yahoo!ニュース