元陸上自衛官で、訓練中などに同僚から受けた性暴力を告発した五ノ井里奈さん(23)が、横浜市青葉区の小見川道場で柔道指導者としての道を歩んでいる。実名で告発し、ネットで誹謗(ひぼう)中傷を受けながら、闘いを進めてきた五ノ井さんの強さとは――。
道場で5日に開かれた初心者の女性向けの体験会には、10~70代の女性31人が参加。五ノ井さんは「今日は私をたくさん投げてストレスを発散して、元気になって帰ってください」とあいさつした。
柔道の技の動きを採り入れたエクササイズに続いて、大外刈りや背負い投げを教えた。五ノ井さんが「皆さん、上手です」と口にするたび、参加者は拍手で互いをたたえた。
「人が怖くて家から出られない」
実は、開催するか前日まで悩んでいた。1月末、性暴力の加害者らと国に対して損害賠償を求めて提訴。ネットでの誹謗中傷が、さらに勢いを増した。「人が怖くて家から出られない」と、体験会の中止も考えていた。
最終的に背中を押したのは、道場の代表で総合格闘家としても活躍する小見川道大さん(47)だった。「だって悔しいじゃないですか。中止したら、顔も見せずに中傷しているヤツらの思うつぼですから」
昨年6月、五ノ井さんが陸自を退職して被害を告発することを決めた時、「道場で働かせてもらえないか」と相談したのが小見川さんだった。宮城県の実家にいた五ノ井さんをすぐに呼んで面接した。「とにかく柔道が好きでたまらないことが伝わってきた」。その場で採用を決めた。
体験会に参加した法律事務所勤務の千葉県の女性(49)は、五ノ井さんと直接会い、「こんな若い人を闘わせてしまったのか」と胸が痛んだという。
自身もメーカーに勤めていた若い頃、宴会で一発芸を求められたり、飲み会の二次会に自分だけが残されて取引先の男性とふたりきりにさせられたり、さまざまなセクハラを経験した。「笑っていなすしかなかった。でも私たちの世代がそうしたせいでいまも若い人を苦しめてしまった」
ただ、楽しそうに柔道を指導する五ノ井さんの姿を見て、「裁判など闘いは続くかもしれないけど、人生はそれだけじゃない。切り離してこれからの人生も楽しんでほしい」と話した。
柔道から学んだことは
この日、参加者の技を受けて100回以上畳にたたきつけられた五ノ井さんは、締めくくりにこう語った。「私は、何度投げられても立ち上がること、相手に向かっていくことの大切さを柔道から学んだ。だから落ち込んでも、たたかれても、また立ち上がる」
五ノ井さんは8月にある全日本実業柔道個人選手権大会への出場を予定している。就学前から柔道を始め、中高生時代に全国大会に出場。自衛隊体育学校への入学をめざして陸自に入隊したが、志半ばでその道を絶たれた。「戦う姿をもう一度見てほしい」と出場を決めたという。(伊木緑)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル