それぞれの朝は、それぞれの物語を連れてやってきます。
シェイクスピアは、「命は神様からの借り物だ」と書きました。だから、寿命が来たら返すのは当たり前というわけです。 またマザー・テレサは、こんな言葉を残しています。「死とは、体をお返しするに過ぎないことです」 さらに浜口庫之助は、『粋な別れ』のなかでこんな詞を残しています。 「いのちに終わりがある 秋には枯葉が小枝と別れ 夕べには太陽が空と別れる 泣かないで 泣かないで 粋な別れをしようぜ」 シェイクスピアもマザー・テレサも浜庫さんも、皆さんごもっとも。「その通りですね」と得心がいきます。ところが、死ぬのはやっぱりイヤで、怖くてたまりません。 もしも「余命」を告知されたら、自分が一体どうなってしまうのか? まったくもって検討がつきません。大体、自分に責任がもてません。
神戸市灘区の在宅ホスピス『関本クリニック』院長・関本剛さんは、緩和ケア医師として、およそ1000人のがんの患者さんと家族に寄り添い、心と体の苦痛を和らげ、その最期を看取って来ました。 現在44歳の関本さんの体調に変化が表れたのは、去年(2019年)10月……。春先から咳が出ていたので、胸部のCTを撮影してもらったところ、肺に腫瘍が見つかってしまったのです。 精密検査の結果、ステージ4の肺がん。さらに最悪なことに「脳への転移あり」という診断。まだ43歳の若さです。奥さんと9歳の長女、5歳の長男を、これから長い間、養って行かなければなりません。 想定できる余命は、2年。診断を受けた病院の帰り、泣きはらした目でハンドルを握った奥さんが言ったそうです。 「きょうは、やりたいことをしたら? 何がしたい?」 その一言に救われた関本さんは、こう答えたそうです。 「映画を観たいな」
自分に深刻な病気が見つかった場合、どんな道を選択するだろうと、ふと考えてしまいます。 入院して治療を受ける。全てを投げ出し、リタイアして家で寝ている。動けなくなるまで世界を駆け巡り、面白いものを見て、うまいものを食べる。どれも間違いではないでしょうが、関本さんの選択は違いました。 抗がん治療を受けながら、これまで通り緩和ケア医として働く。関本さんは、この勇気ある道を選んだのです。 自分が、がんの患者になる前と後では、いろいろなことが違って来ました。それまでも関本さんは、患者さんと一緒になって一喜一憂するタイプの医師でしたが、この意識がより鮮明になり、患者さんとの距離がより縮まったと言います。 診察の後、関本さんは患者さんによくこんな声をかけます。 「これからも情報交換をし合って、お互い長生きしましょうや!」 患者さんのうれしそうな笑顔! 心の交流がより強まったと感じる一瞬です。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース