病棟のトイレからナースコールがあった。 看護師の中島ひとみさん(30)が駆けつけると、肺炎で入院していた高齢の男性患者が脂汗をかいていた。
呼吸は浅く、意識はほぼなかった。
「聞こえますかー?」
手首に記入してあった氏名を見て、耳元で名前を呼んだ。
トイレの個室のドアを閉め、20分ほどそばにいた。昨年2月中旬のことだ。
まさかのコロナ
担架で患者は運び出され、医師が治療を始めた。
しばらくした後、医師からナースステーションに電話があった。
「あの患者さん、武漢の肺炎かもしれない」
病院がある東京都内でも、1日の新型コロナウイルス感染症の新規感染者は、まだ1桁だった。
「え? なんですか?」
何度も聞き返した。
「コ、ロ、ナ。コロナかも」。ようやく医師の言葉が理解でき、受話器を持つ手が震えた。
狭いトイレでの患者とのやり取りがよみがえった。自分も感染したかもしれない、感染したに違いないと思った。
まず濃厚接触者となるのは、男性を担当していた先輩看護師と自分だろう。ほかの看護師に感染を広げないように、2人で男性の気管挿入の補助をした。
その日の帰り道、祖母(72)に電話をした。
「コロナに気をつけて。元気でいてね」
急変した患者の姿が目に焼き付いていた。
病院であったことは話さなかったが、自分も感染していたら、急変し、もう祖母と話せないかもしれない。そう思って話をした。
母の懇願受け、クラスター病院へ
中島さんはPCR検査を受け、感染は確認されなかった。
以前からの予定通り、3月末に退職し、次の就職先を探した。
自宅でゆったりと過ごしていた4月、同居している看護師の母(56)の勤め先でクラスター(感染者集団)が発生した。
小さな子どもがいたり、高齢者と同居していたりする看護師の代わりに、率先して感染者のケアにあたっていた母親も感染した。
母の元には「○○さんが感染、○○さんが発熱」と頻繁に連絡が入っていた。
入院する前夜、母は言…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル