聞き手・田中聡子
耕論 戦時の動員どう考える
戦時下の日本では総動員体制が敷かれ、さまざまな形で人々が戦争に動員されました。銃後の美談を研究する民俗学者の重信幸彦さんは、「追い詰められた人たちが、自発的に戦争に参加していく姿」が美談から読み取れると言います。その姿は今の時代を生きる私たちとどのようにつながるのか、話を聞きました。
しげのぶ・ゆきひこ
1959年生まれ。北九州市平和のまちミュージアム館長。著書に「みんなで戦争」「<お話>と家庭の近代」。
美談は「プロパガンダ」だけじゃない
――戦時下の銃後美談というと、プロパガンダのために作られたうさんくさいイメージしかありません。
「今の私たちは、『プロパガンダにすぎない』『作られたものだ』など、軽く見る傾向があります。私ももともとは、そう思っていました。確かに天皇を中心とした当時の世界観の中で『赤誠』とか『軍国の母』とか戦意発揚のための色々な意味づけがされているのですが、それをきれいに消していくと、わたしたちの等身大の振る舞いと選択の記録として読むことができます」
――何が浮かび上がりましたか。
「人と関わって生きる中で、当たり前に生まれる共感や同情、善意が、人々を戦争に前のめりにしていったことです。例えば、妻に先立たれた男性が、子どもを残して戦争に行く状況で、近所の人が『なんとかしてあげなきゃ』と動いたり、シンパシーを抱いたり。そのさしのべた手が、人々を戦争に参加させていく。そんなことが見えてきました」
「美談には『おまえたち、ちゃんと戦地に行かなきゃだめだろう』と大声で叫ぶような人は全く出てきません。全員がいい人なんです。それがショックでしたし、動員の怖さです」
「空気」が生んだ自発性
――同調圧力と言われるものですね。
「私は『空気』と表現してい…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル