民間小型ロケット発射場ができたことをきっかけに本州最南端にある和歌山県串本町の県立串本古座高校(生徒数228人)に来春、宇宙をテーマに理数科目や環境、ビジネスなどを広く学ぶコースができる。その担当教諭に、神奈川県出身で宇宙航空研究開発機構(JAXA)に勤めていた藤島徹さん(55)が採用された。「人生を自分で考えて切り開く意気込みを持った生徒に来てほしい」と胸を膨らませている。
藤島さんは、乗り物が好きな少年だった。車から始まり、新幹線、飛行機、そして最後に関心はロケットへ。「行き着くところまで行ってしまった」と笑う。大学浪人時代の1986年、スペースシャトル・チャレンジャー号の爆発事故が起きた。事故に衝撃を受け「安全安心な乗り物を設計したい」と航空宇宙分野への思いを強めた。
日大理工学部で航空宇宙工学を専攻した。卒業後は子どもへの宇宙教育をしている「日本宇宙少年団」やJAXAの業務を請け負う一般財団法人「日本宇宙フォーラム」(東京)で働いた。出向でJAXAに計9年間勤務した経験も持つ。国際宇宙ステーション(ISS)の科学実験の運営、鹿児島県の種子島宇宙センターでのロケット打ち上げ撮影の管理、JAXAと大学や企業を結ぶ共同研究事業の運営などを担当した。
仕事のかたわら「日本宇宙少年団」の横浜分団のリーダーを長く務め、子どもたちに宇宙を通じて科学に興味をもってもらう活動もしてきた。串本古座高校が宇宙教育の担当教諭を探していると聞き、今後のキャリアについて半年考えて決断した。妻や娘2人を神奈川県の自宅に残して串本町に赴任した。
串本町には民間小型ロケット発射場「スペースポート紀伊」があり、今夏に1号機の打ち上げが予定されている。高校の授業では、発射場を運営するスペースワン(東京)や大学の専門家らにも教壇に立ってもらう予定だ。
生徒は全国から募集する。藤島さんは、生徒たちに宇宙への興味を持ってもらい、大学などへ橋渡ししたいと考えている。「宇宙って面白いなと思ってもらえる授業にしたい。ゆくゆくは和歌山に帰って、宇宙関連産業に就職する生徒が出てほしい。和歌山から宇宙飛行士を本気で出したい」(伊藤秀樹)
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〈串本古座高校の宇宙探究コース〉2024年度、普通科に新設する。「航空宇宙工学」、「宇宙観測と利活用」、「衛星データ分析と活用」、「宇宙と国際理解」など宇宙に関する科目を3年間で7~11単位学習する予定。国公立や私立大学の理工系学部を主な進学先に想定。宇宙に関連する観光や経済、国際関係など文系への進学にも対応する方針。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル