ロシアのウクライナ侵攻の長期化で核兵器使用に対する懸念が高まる中、今年5月には広島でG7サミットが開かれ、被爆地に世界の目が注がれました。核戦争を起こさないためには何をすべきか。7月29日に広島市の広島国際会議場で開かれる国際平和シンポジウム2023「核兵器廃絶への道」で登壇し、「特別トーク」をする作家の高村薫さんに聞きました。
――G7広島サミットでは参加国や招待国の首脳らが広島平和記念資料館(原爆資料館)を訪れました。
「首脳たちの肉声が伝わらなかった。せっかく資料館に行ったのに何を見たのか、見て何を感じたのか、それがまったく外に伝わらないというのは行っても意味がないんじゃないかと思いました」
「もうひとつ驚いたのは資料館の視察内容で米国と最後までもめたということ。日本の資料館なのだから、ここにはこういうものがありますと見てもらえばいいものを、米国から注文がつくということ自体が非常に驚いたし、日本人として不本意でした」
広島でのシンポでは核兵器禁止条約の国連会議で議長を務めた元コスタリカ大使のエレイン・ホワイトさんの基調講演や被爆者と若い世代の対話などがあります。入場無料。ネットでライブ配信(http://t.asahi.com/isp2023)します。
――せっかくの貴重な機会なのに、その意味が損なわれたということですか。
「いちばん理想的な形というのは、首脳たちが報道陣も交えたオープンな形で資料館に入り、そこで正直な印象を語る。展示を見た後で考えたことや、資料館に行ったことを踏まえてなにがしかの新しい核軍縮の方向性というのが見えてくれば、そこで初めて『広島の原爆資料館に行った』意味が出てくる。今回はそうした肉声がまったく伝わってこなかった」
――「核軍縮に関するG7首脳広島ビジョン」に核抑止政策を肯定する内容が盛り込まれたことに、被爆者や国内外のNPOから失望や落胆の声があがりました。
「あくまで核抑止を前提にして、その中で核の管理に道筋をつけるという話で終わってしまった。核兵器を禁止するという流れとは程遠いし、そのような考えはハナからない。広島で見たものが何も実を結んでいない。非常に残念なサミットだったと思いますが、もともと分かっていたことです。核兵器を保有し、核抑止の先頭に立っている首脳たちが、口が裂けても核抑止に反するようなことを語れるわけがない」
――岸田文雄首相はサミット後の記者会見で「夢想と理想は違います。理想には手が届くのです。(中略)一歩一歩、現実的な歩みを進めていきましょう」と述べました。「現実的な歩み」をどうみますか。
「米国の『核の傘』にいると…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル