人家が途切れて5キロほど、冬枯れの農地が広がる道を行く。こつぜんと、長大なコンクリートの壁と大きくアーチを描く橋が現れる。
橋を渡った先にも、もう人は住んでいない。道路はそこで行き止まりだ。
いったい誰のための橋なのだろう――。
「あくまで壊れたものを元に戻す、原形復旧」
宮城県石巻市大川地区。12年前の震災で壊れた尾の崎橋の災害復旧工事が、この春、やっと終わる。汽水湖である長面(ながつら)浦の両岸、長面と尾の崎の二つの集落跡を結ぶ県道の橋だ。一帯は震災後、災害危険区域になっている。
新しい橋は高架構造で架け替えられた。手前の長面側に震災前よりはるかに高い8・4メートルの防潮堤がつくられ、それを越えるためだ。橋の全長は旧橋の56メートルから180メートルに延び、さらに300メートルの取り付け道路を通すため、山が大きく削られた。
総工事費71億円。
工事にあたった県東部土木事務所は「防潮堤を越える必要があっただけで、豪華につくりなおしたわけではない。あくまで壊れたものを元に戻す『原形復旧』だ」と説明する。
橋はすでに通行できる。渡る人たちを待った。
東日本大震災から12年。復旧・復興工事はほぼ終わり、新しい風景の中での人々の営みも始まっています。大きな被害があった宮城県石巻市を記者が歩き、復興のあり方について考えました。
長面浦はカキ養殖で知られ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル