地球温暖化に対する危機感を共有しようと、自治体などが「気候危機」や「気候非常事態」を宣言する例が相次いでいる。世界では1900以上の宣言があり、国内でも昨年11月の衆参両院を始め、90近い自治体や地方議会、団体などが宣言した。今後は宣言にとどまらず、具体的な行動にどうつなげていくかが課題だ。
「危機を認識して直ちに立ち上がるということが、世界の潮流になっている」
昨年11月、自治体や企業、大学、団体などの関係者約190人が発起人となり、「気候非常事態宣言ネットワーク(CEN)」の設立総会が開かれた。発起人委員長の山本良一・東京大名誉教授は「人類はコロナ危機以上に深刻な気候危機に直面している」として具体的な行動を呼びかけた。
国内の自治体で初めて気候非常事態宣言をしたのは、2019年9月の長崎県壱岐市だ。人口約2万6千人の離島で、温暖化が原因とみられる深刻な影響を感じている。この4年で「50年に1度」の集中豪雨に3度見舞われ、主な産業である漁業は海水温の上昇などで漁獲量が10年で半減したという。
島の北側にある勝本町漁協の大久保照享組合長は「海水温が上がってスルメイカの産卵がなくなり、海藻が減って魚も来なくなった。過去の自然のサイクルとは明らかに違う」と危機感を募らせる。
宣言は「50年までに市内で使うエネルギーを地元の再生可能エネルギーに完全に移す」とうたう。実現に向けて再エネ導入率を現在の約12%から30年度までに24%に引き上げる目標を掲げる。再エネと水素蓄電などの実証を進めており、経済性や安全性を確かめる。周辺海域での洋上風力発電による電気を島の外に送る構想もある。
ただ、再エネ100%を実現するには、再エネによる収益を地元に還元するような、エネルギーの地産地消を進める国の制度が必要だ。
都道府県では、長野県が19年12月に最初に宣言した。県内は2カ月前の台風19号で千曲川が氾濫(はんらん)するなど、人や住宅に大きな被害を受けた。宣言には温室効果ガスの「50年実質排出ゼロ」や「自立分散型エネルギーによる災害に強い地域づくり」が盛り込まれた。
長野県は現在、実行計画にあたるゼロカーボン戦略を策定中だ。案には「50年実質ゼロ」に向けた30年目標として、10年比で48%削減、再エネ生産量を2倍、エネルギー消費を4割減、すべての新築をゼロエネルギー建築にするなど意欲的な項目が並ぶ。
CENのまとめによると、これまでに国内の自治体と地方議会で気候危機の宣言をしたのは、北海道、岩手県、東京都、神奈川県、沖縄県、大阪市など約70以上。千葉商科大学や聖心女子大学などの大学、日本建築学会、鎌倉市医師会、生活クラブ生協連合会なども宣言している。
国が30年度に46%(13年度比)、50年度の「実質ゼロ」といった新たな削減目標を掲げたことで、最近になって急ピッチで増えている。
神奈川県藤沢市は今年2月に気候非常事態を宣言した。国の動きに加え、市民が表明を求める陳情を出し、市議会が昨年12月に趣旨了承した。
藤沢市は50年実質ゼロに向けて、短期の30年度や中期の40年度の目標を設けたうえで、達成に向けた具体的な方法を21年度にまとめ、22年度から30年度までの環境基本計画などに盛り込んでいくという。
東大名誉教授の山本さんは「社会の大転換には、気候非常事態宣言というウェーク・アップ・コール(目覚まし)が必要だ。地方自治体の場合、政治的意思を明確にして実行計画を立てることで、温暖化対策の実効性が高まる」と話している。
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「Covering Climate Now」は2019年4月に始まった、気候変動の報道強化の国際キャンペーンです。地球温暖化の危機に直面した今こそ、メディアも変わらなければという問題意識から、米ネイション誌とコロンビア・ジャーナリズム・レビュー誌が立ち上げました。朝日新聞社もその趣旨に賛同し、参加しています。(川田俊男、編集委員・石井徹)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル