「現代の忍者」として三重県伊賀市石川で防災コンサルタントなどをしながら活動する三橋源一さん(49)が博士になった。三重大学が2018年度に導入した大学院修士課程の「忍者・忍術学」コースの修了者から初めての博士号取得という。忍びに関する史学的な探究から、現代の地域防災のあり方に広げた研究が認められた。
三橋さんは、三重大学が全国初の忍者コースとして大学院人文社会科学研究科に設置した「忍者・忍術学」の修士課程1期生。この分野に博士課程はなかったが、その後も向学心は衰えなかった。災害時の企業の事業継続(BCP)などに関する専門家として、古文書などを通して江戸時代の農村での災害時の対応を調べることで現代の防災につなげたいと、地域イノベーション学研究科の博士課程に進んだ。
江戸期の文献調査などに明け暮れる中で、三橋さんは、1854年の伊賀地域の地震で、鈴鹿市内の農民の被災状況を津藩に仕えた「無足人」がいち早く把握し、藩側に伝えたことを確認。無足人は一部が伊賀衆の流れをくむ。被災した農民を支援する権限が支配層から与えられ、公助と自助を結ぶ立場にあった。
博士論文は「災害対応における組織間協働の歴史的考察―鳥羽藩・津藩・岡山藩の比較―」。被災地での無足人の活動などを記したうえで、幕末の津藩にみられた被災者支援のあり方が現代の地域防災にも役立つ可能性を指摘し、教授陣の厳しい査読を通過した。
三橋さんは、鳥取大学や京都大学大学院で農業経済を学んだ後、出身地の大阪府枚方市に戻り、ビル管理などを手がける家業を手伝った。一方で、26歳のころ入門した道場で忍術などの武道を体得し、現在は大師範の腕前だ。
三重大学の修士課程への進学に合わせ、「防災と農業、忍術を全部できる場所」として伊賀市に移り住んだ。研究と並行して、農業や防災に関する取り組みを続ける一方、外国人向けに伊賀流の忍術を紹介する講師などとしても活躍している。
20日に学内で博士号の授与式があり、三橋さんはアカデミック・ガウンに身を包んで出席。地域イノベーション学研究科長の諏訪部圭太教授から証書を受け取ると、丁寧にお辞儀して感謝を表した。三橋さんを見守ってきた教授陣の1人は「がんばって学位を取られたことに敬意を表する。自分の生き方を学問で表現されていると感じた」とたたえた。
三橋さんは「忍びは正確ですばやい情報の伝達が最も重要な仕事とされ、その動き方は災害発生時に情報収集などで役立つと思う。忍びの文化を通して南海トラフ巨大地震などに備える社会づくりに貢献していきたい」と今後を見すえている。(亀岡龍太)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル