高齢の運転者による事故が後を絶たない。ただ、免許の自主返納を勧められても、加齢による衰えを認めなかったり、生活に支障を来したりで、返納に応じられない高齢者も多い。そんな中で、「運転をやめる」と決めた73歳の男性に、決断の理由を聞いた。(古田寛也)
大阪市住吉区の男性(73)は昨年12月中旬、自身の軽乗用車を処分した。
運転歴は50年。製本会社や清掃会社で働き、通勤や仕事で毎日のように運転してきた。一昨年に清掃の仕事を退職してからも、買い物や、手術を受けた右足のリハビリのための通院で、ハンドルを握らない日はほとんどなかった。
いまは20代の息子と2人暮らし。「もう年だし、運転はやめたら」と息子から諭されることはあったが、車のない生活は考えられなかった。「自分はまだ大丈夫」と言い聞かせてきた。
12月半ばだった。買い物を終え、自宅まで約2キロのいつもの交差点にさしかかった。前方に赤信号で停車している車が見え、ブレーキを踏む。だが、止まりきれずに追突した。双方にけがはなかったが、距離感やブレーキを踏む感覚が鈍っていることに気づいた。
「前に車がなかったら、そのまま横断歩道で人をはねていたかもしれない」。3日後に車を手放した。
事故後に足が痛むようになり、通院のタクシー代は自動車保険でカバーしている。ただ、いつまで支払われるかは分からない。「往復でタクシー代が3千円以上かかる。年金生活でこの負担はきつい」
リハビリの通院先へは車なら10分だが、公共交通機関となると、1時間に1本のバスで30~40分かかる。転倒防止のために歩行器のレンタルを始めたが、雨や風の日はつらい。
息子は日中、仕事があってサポートは期待できない。男性は「薬を一度に多く出してもらい、通院回数を減らすしかないかな」と話す。
地元の社会福祉法人に相談し…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル