刑務所から仮出所した人を受け入れ、社会復帰を支援する全国初の国営施設「北九州自立更生促進センター」(小倉北区西港町)の開設から今年で10年が過ぎた。これまで約280人を受け入れた。無銭飲食で服役を繰り返した男性(71)もその一人。センター入所をきっかけに更生への道を歩んでいる。
「刑務所を出所してセンターで過ごした日々が、今の生活の礎になっている」。男性は過去に無銭飲食による詐欺罪で8回、計10年以上服役した。罪を重ねた原因はアルコール依存症だった。
若いころから酒が好きだった。40代のとき、火事で自宅が焼け、母親を亡くした。助けられなかった自責の念で、ますます酒に溺れた。「ただ酔うためだけ。他に目的はなかった」。記憶がなくなっても飲み続け、気がつけば無銭飲食で現行犯逮捕されていた。何度も逮捕されるうちに、罪悪感もなくなった。
「酒にのまれて死ぬのかな」。60歳を過ぎたころから、酒を断ちたいと思い始めた。最後の服役中、出所直後の住まいとして民間の更生保護施設を希望したが、全て断られた。そんなとき、センターの保護観察官が刑務所まで面接に訪れた。「酒、やめたいですか」。救われる思いだった。
センターに入所中、職員からアルコール依存症の回復支援施設を紹介され、毎日通った。「回復できる」という希望が見えてきた。
今は施設の支援を受けながら県内で暮らす。最後に逮捕された約5年前から、酒は一滴も飲んでいない。ハローワークに通って仕事も見つけた。「少しでも社会の役に立っていると思える。それが今の生きがい」と話す。
北九州自立更生促進センター
家族など引受人がいなかったり、民間の更生保護施設に入れなかったりした仮出所者を対象に2009年6月29日に開所された。定員14人。3カ月間をめどに宿泊場所を提供、保護観察官が生活指導などを行う。同様の国営施設は福島県にもあるほか、北海道と茨城県には就農による自立を支援する「就業支援センター」が設けられている。
西日本新聞社
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