和歌山市の紀の川にかかる六十谷(むそた)水管橋の落橋と断水は、生命線としての「水」への備えのもろさをあらわにした。とくにお年寄りにとって水はひときわ重く、大学生ボランティアが支援に乗りだした。
「不便やなあ」。和歌山市加太でひとり暮らしの幸前成子さん(80)はしみじみと言う。
昨年に腰を骨折し、いつもシルバーカーを押して歩いている。近くの小学校に給水所が設けられたが、「重たいペットボトルを持ってよう歩かん」。自宅の敷地にある井戸の水は塩気があって皿洗いや洗濯にしか使えない。ご飯を炊く時は市内に住む娘やヘルパーさんが持ってきてくれる飲料水に頼っている。なるべく水を使わないようにと冷蔵庫の残り物を食べるようにし、ぬれたタオルで身体を拭いてしのいでいる。
井戸水を家の中に運ぶのも一苦労だ。水を満たしたバケツを持つだけで体がふらつく。腰を痛めた後、転んで救急搬送されたこともあるから怖くて仕方がないという。とくに厄介なのがトイレだ。タンクをいっぱいにするにはバケツ10杯分の水が必要だが、それも3回も流せばおしまいだ。
ためていた水が底をついたからと井戸水をもらいに来る近所の人に、「持っていって」と快く分けている幸前さん。9日ごろに復旧すると知って一安心した。「この生活が1カ月も続くぐらいだったら、施設に入ろうと思っていた」
和歌山大学の学生らでつくる災害ボランティア団体「むすぼら」は5日、和歌山市栄谷の貴志小学校に設置された給水所でボランティアを始めた。16人が参加し、訪れた人の車に水を積み込んだり高齢者宅へ運んだりした。
大学生が給水所でボランティア
同市中の山口浩太郎さん(80)と妻さかえさん(74)は、ポリタンクやペットボトルを自宅まで運んでもらうと、「昨日水を運んでから腰が痛くて。ほんまに助かりましたわ。ありがとう」と目を細めた。さかえさんは4年ほど前に腰を手術した。自宅から給水所までの路面はゴツゴツとしているから、重い水を運ぶのは大変だった。
山口さん宅に水を届けた教育学部3年の源田優一さん(22)は、貴志中学校で1日まであった約1カ月の教育実習期間中、山口さん宅の近くにある寮で生活していた。「お世話になった地域に貢献したいと思って参加しました。すこしでも力になれたら」と話していた。
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七つの中学校にも応急給水所
和歌山市は5日、紀の川以北にある7中学校に応急給水所を開設した。6日以降も午前7時から午後8時まで使える。給水車は100台以上を確保しているといい、4日に設けた21小学校の応急給水所も同じ時間帯で引き続き使える。11支所・連絡所と15公園には簡易トイレを設置した。断水していない以南の17連絡所と12支所は午前9時から午後5時まで、4コミュニティセンターは午前9時から午後9時半まで給水に利用できる。
また、和歌山市は6日午前10時から復旧工事を始める。水のうかい路をつくるため、六十谷水管橋の隣の六十谷橋(県道)が復旧が完了するまで全面通行止めになる。(国方萌乃、下地達也、下地毅)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル