新型コロナウイルスの水際対策がほぼ撤廃されて1カ月以上が経ち、街に外国人観光客の姿が戻ってきた。ただ、東京を代表する観光地・浅草にある着物レンタル業者は、別の仕事で店を何とか維持している状況だ。「コロナ禍前にはほど遠い」と嘆いている。
浅草の雷門からほど近いビルの一室に、外国人客専門の着物レンタルと写真スタジオ「Sakura Photo Studio」はある。
代表の寺内寛さん(43)はコロナ禍前、何人もの仲間たちと一緒に5カ国語で客に対応していた。1日に60人ほどの外国客に、和服の着付けやヘアメイクを施して写真を撮影する日もあった。しかし、コロナ禍で仕事は激減。半月で仕事がゼロという時期が続いた。
仲間を解雇した。名称を変えながら続いてきた各種のコロナ対策給付金を受け、韓国人でパートナーのキム・キョンミンさん(46)と貯金を切り崩し、月26万円のスタジオの家賃を工面した。フードデリバリーをして、何とか食いつないできた。
しかし給付事業は6月に終わり、「首が絞まりました」。ほぼ同時期に、海外の一部からの添乗員付きツアー客に限り、外国人客の受け入れが再開されたが、恩恵はなかった。
日本にやって来るのは団体行動の客ばかりだったからだ。ツアー全員が和服姿の東京観光を希望することなど、まずない。たとえ希望があっても、仲間たちを解雇した寺内さんのスタジオでは、大勢の客を同時に着付けることはできない。
8月、手元のお金がなくなった。「もうどうにでもなれ」。そんな思いで、政府系金融機関から無利子で300万円を借りた。一日千秋の思いで外国人旅行客の全面解禁を待ち、「客足が戻る前にパンクしたら、約1千着の着物や小物を全て売り払って、残った借金を背負って生きていこうと決めていた」と振り返る。
会社の通帳の残高が10万円を切ったこともあったという。「本当にギリギリでした」
待ちに待った全面解禁は10月11日だった。1日に1、2件の予約も入るようになった。「でも家賃を払うのがやっと。世間で言われているような、『インバウンド復活』とはほど遠い状況です」と言う。
経営が苦しい最大の理由は、中国と韓国からの観光客が戻っていないことだという。特に中国人観光客は、コロナ禍前には訪日外国人の3割を占めていた。「中国からの『爆買い』に支えられていた事業者も、私同様苦しいと思う」
■愛した仕事「守りたい」 デ…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル