「同じような(性同一性障害の)当事者に対して、勇気づけることができる内容の判決だった」
戸籍上の性別が男性であることを理由に、経済産業省に勤務する性同一性障害の女性職員に対して女性用トイレの利用を制限するなどしたのは違法だとして、東京地裁(江原健志裁判長)は国側に約132万円の賠償を命じた。
原告側弁護団の山下敏雅弁護士によると、性的マイノリティーの職場環境改善をめぐって下された初の司法判断だという。
提訴から4年。判決を受け、都内で記者会見した50代の女性は、司法の判断についてこう評価した。(中村かさね・坪池順/ハフポスト日本版)
「自認する性に対応したトイレの使用制限は違法」
原告の女性職員は、戸籍や身体的には男性だが、性自認(心の性別)は女性。判決文などによると、幼少期から自分の身体的性別が男性であることに強い違和感を抱いていたという。
男性として経産省に入省したが、1998年に性同一性障害としての診断を受けた。職場とは2009年から話し合いを重ね、2010年からは女性職員として勤務を開始。
2011年には、家庭裁判所の許可を得て戸籍上の名前も女性名に変更し、現在は女性として生活している。
だが、女性用トイレの使用については、他の女性職員との間でトラブルが生じる可能性があるとして、勤務しているフロアから2階以上離れている女性トイレを利用するよう制限された。
判決では、「個人が自認する性別に即した社会生活を送ることができることは、重要な法的利益として、国家賠償法上も保護されるべき」と指摘。
「自認する性別に対応するトイレの使用を制限されることは、個人が有する重要な法的利益の制約に当たると考えられる」としたうえで、「(経産省が)尽くすべき注意義務を怠ったもので、違法だ」と認定した。
「LGBT配慮は、もう先進的な取り組みではない」
さらに、判決は「トランスジェンダーによる性自認に応じたトイレなどの男女別施設の利用をめぐる国民の意識や社会の受け止め方には、相応の変化が生じている」と踏み込んだ。
性同一性障害者が自認する性別に応じた男女別施設を利用することについて、国側は「必ずしも国民一般においてこれを無限定に受容する土壌が形成されているとは言い難い」と主張していた。
判決公判後の会見で、弁護団の立石結夏弁護士は「民間、自治体、すべてに対して、職場におけるLGBTの問題は先進的な取り組みではなくて、使用者が当然行うべき環境配慮だという強いメッセージ発した判決だと思っています」と評価した。
また、判決は、女性職員が「行動様式や振る舞い、外見が女性として認識される度合いが高い物であった」「女性に対して性的な危害を加える可能性が客観的にも低い状態に至っていた」と指摘した。
むしろ、過去には男性用トイレにいた女性に驚いた男性がトイレから出て行くトラブルもあったとして、「女性の身なりで勤務する原告が経産省の男性用トイレを使用することは、現実的なトラブルの発生の原因になる」と認定した。
こうした点について、山下弁護士は「法律上の性別にこだわって画一的な判断をするのではなくて、当事者の状況に応じた、柔軟な対応をしていくということが必要。裁判所もそう判断したということは、非常に意義のあることだと思う」と強調した。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース