伝統的な治水工法である「霞堤(かすみてい)」の役割が見直されている。堤防をあえて途切れさせておき、遊水地のように川の水をのがす仕組みで、頻発する豪雨への対策として新たに計画に採り入れる動きもでてきた。下流の被害を小さくするだけにとどまらない役割もある。現地見学会に同行し、その効果や課題を探った。
わざと途切れた堤防 あふれる場所をつくる
「橋のところ、堤防が不連続になっていますね。水位が上がってくると、ここから逆流します」
10月中旬、総合地球環境学研究所(京都市)が、福井県小浜市の北川流域で霞堤の見学会を開いた。霞堤の役割を探る研究の一環で、住民らが参加しオンラインでも中継した。
北川は、滋賀県の山中から北西に流れ、日本海へと注ぐ。河口近くには小浜市の市街地があり、途中の両岸には水田が広がる。流域には11カ所の霞堤がある。
河口から4キロほどの地点を訪ねると、水田からの小さな川が堤防を横切る形で北川の本流へ注いでいた。水門は見あたらない。本流が増水すれば逆流してくる構造で、実際、付近の水田はよく冠水するという。
このように堤防を途切れさせ、二重に配置するなどしてあふれる場所をつくっておくのが霞堤だ。遊水地のように下流の水位を下げるほか、氾濫(はんらん)した水を川へと誘導して被害の拡大を防ぐ機能がある。勾配が小さいところは遊水、大きいところは誘導の役割が大きいという。
「霞堤を閉じてしまうと下流の負担が大きくなり、堤防も壊れやすくなる。水もはけにくくなってしまいます」と滋賀県立大の瀧健太郎准教授が解説した。
閉鎖した場合をシミュレーションすると、大きいときで下流の水位が30センチほど上がる結果が出たという。水田側が水につかる時間も倍増し、1日半ほどかかる結果になった。
霞堤は、国が昨年から推し進める「流域治水」でも手段の一つになっている。ただ、その役割は治水だけとも限らない。
■川から水田まで生きものが行…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル