あっ、訓練と同じかも――。和歌山県かつらぎ町のコンビニ店員の女性は思い出した。2年前に受けた特殊詐欺防止の訓練のことをだ。「パソコンがウイルスに感染して……」とプリペイドカードを買おうとする高齢男性が話す内容が訓練と同じだった。時間がなさそうに急いでいた男性に、女性は機転の利いた対応を見せた。
今年1月14日、ファミリーマートかつらぎ大谷店でマネジャーをする東千恵子さん(58)は、店内でセルフ式コーヒーマシンの手入れをしていた。男性が店にやってきたのは午後6時ごろだった。「プリペイドカードはどこにありますか」と話しかけられた。男性が求めていたのは、金額を設定できるプリペイドカードだった。
男性店員がカードコーナーを教えると男性は2枚を持ってきた。レジにいた東さんが金額を聞くと4万円だった。高齢者がプリペイドカードを買うことは珍しくない。しかも比較的、金額は低い。しかし、「何に使いますか」と尋ねると「パソコンがウイルスに感染して、その修理代として購入したい」と男性が答えたことで東さんはピンときたという。
そこからは冷静だった。「これは詐欺かもしれないですよ」と言ったら急いでいる男性は別のコンビニに行ってしまうかもしれないと考えた。「まだか」と時間を気にする男性をどうにかして落ち着かせたい。東さんはとっさに「カードがパソコンに使えるか確認するのでお待ちください」と答え、イートインコーナーに誘導し、いすに座らせた。
そのあいだに東さんは警察署に通報した。駆けつけた署員が男性と一緒に男性宅にウイルス感染しているかどうか確認しに行くと、自宅の電話をつなぎっぱなしだったという。署員が電話に出ると、電話は切れた。
「ピタッとはまった」と東さん。2021年11月、店で実施した特殊詐欺防止の訓練で、被害者に扮した署員が「パソコンがウイルスに感染して……」という言葉をつかっていたから気づけたと振り返る。
和歌山県警かつらぎ署は16日、東さんに感謝状を贈った。桜田徹署長は「特殊詐欺の疑いを持って声をかけてくれたことに感謝します。訓練したことが役立ち、やりがいを感じます」とたたえた。東さんは「訓練したから自信が持てた。高齢者には声かけを徹底したい」と話した。(高田純一)
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県警は、2022年の特殊詐欺の被害状況をまとめた。件数は102件で前年から43件増えた。被害総額も1億7312万円で前年比8247万円増だった。
手口の種類別でみると、「預貯金詐欺」が25件、「キャッシュカード詐欺」が8件で、前年まで1件ずつだった手口が大幅に増加した。息子を名乗る「オレオレ詐欺」は18件で前年の3倍に、架空料金請求詐欺は41件でほぼ倍だった。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル