わずか1時間足らずの早さだった。大分県日田市の花月川沿いの吹上町自治会(住民約千人)の自主防災組織は、避難指示が出た7月6日午後4時半、対策本部を公民館に設置。自治会長で対策本部長の財津和敏さん(75)は、体の不自由な高齢者など要援護者56人の避難を、5ブロックの班長たちに要請した。 班長の下、要援護者一人一人の担当者(約100人)が、避難所に連れて行ったり、垂直避難を呼び掛けたりして、1時間弱で全員の安否を確認した。 「2012年の九州北部豪雨の際は、既存の連絡網で指示を図ったが、遠方者がいるなど全く機能しなかった」。財津さんは振り返る。その経験を生かし、組織を全面的に見直した。 班長5人のうち3人は、被災者支援の基礎知識や技能を身に付けた防災士の資格を持つ。その1人の伊藤昭彦さん(60)は「大雨時には避難呼び掛けや見回りで家には帰らず、役割を全うする。周りのみんなも必死に協力してくれるからこそ、役目を果たせる」と地域力を強調する。自主防災組織を引っ張る防災士。その役割に期待する吹上町自治会は本年度、残る班長2人にも防災士の資格を取得してもらう予定だ。
防災士、地域での活躍まだ少なく
日田市によると、市内では600人以上が防災士の資格を取得し、全164自治会に少なくとも1人はいるという。しかし自主防災組織で防災士が活躍しているケースは少ない。それどころか、日田防災アドバイザー連絡協議会事務局長で防災士の佐々木祥治さん(55)は「地域で役割を果たせず、孤立している人が多い」と指摘する。 なぜか-。自治会ごとの防災意識の濃淡、防災士資格の認知度不足のほか、防災士名簿が個人情報として公開されていないことも要因の一つだ。このため自治会側は誰が防災士なのかをつかみにくく、防災士自身も横の連携が乏しい。市は「名簿公開には全員の了解が必要なので難しい」という。 災害は経験しなければ分からないことも多く、自治会同士の情報の共有は重要だ。しかし現状は、教訓を共有する手だてはほとんどない。「防災士の交流が進み、さらに各自主防災組織でリーダーとなれば、組織同士の情報共有で防災力は向上する」。そう考える佐々木さんは、まずは防災士の連携づくりに動きだしている。次の災害に備えて。 (吉田賢治)
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