新型コロナウイルスの感染対策の「切り札」として期待が高まるワクチン接種。各地に設けられた集団接種会場の運営には、意外な企業のノウハウが生かされている。社会貢献という側面だけでなく、一刻も早く、コロナ禍前の日常を取り戻したいとの企業側の思いもにじむ。
トヨタの「カイゼン」採り入れ
愛知県豊田市の集団接種の会場運営でタッグを組んだのが、地元の自動車メーカー・トヨタだ。作業のムダを省く「カイゼン」のノウハウを採り入れている。
ハイブリッド車「プリウス」などを生産するトヨタ堤工場(同市)にある福利厚生施設に6日、住民が集団接種を受けに続々と訪れていた。
豊田市では約25万人の接種が見込まれ、市と連携協定を結ぶトヨタは、産業医や看護師ら延べ計450人を派遣。四つの会場提供やレイアウト設計といった運営支援を無償でする。
会場入り口でスタッフが問診票やクーポン、身元証明書などの必要書類をバインダーにまとめ、接種者に手渡す。受け付けや問診時に書類を取り出すムダを省くためだ。その後は書類の記入漏れチェック、受付、問診、接種と進む。動線は最短ルートで「一筆書き」だ。ここまで最短約5分。15~30分間待機し体調の異変がなければ帰れる。待機時間に2回目の接種予約もする。
運営支援にあたるのは、トヨタの生産現場で効率化を図る「カイゼン」を重ねてきた社員だ。市や医師会の助言のもと「受け付け80秒」「手指消毒12秒」と作業ごとに時間を算出し、最適な人員配置を考えた。会場の床には進路を矢印で示し、約60の案内板を設置した。トヨタの担当者は「接種者に負担をかけず、最低限の声かけで進んでもらえるようにした」。
福岡県宗像市も従業員が市内に多く住むトヨタ自動車九州と連携協定を結び、効率化を図る。「お年寄りの1歩でも無駄にしてはダメです」。5月下旬、市の集団接種会場で、トヨタ九州の菅原利彦・TPS推進室主査は市の担当者に厳しく指摘した。市は当初、医師が接種できるかを確認する予診ブースと、注射するブースを分けていたが、それでは接種を受ける高齢者の移動距離が長くなり、時間もかかる。
市は助言を受けて動線を見直し、まずは予診と接種のブースを一つにまとめ、移動時間を減らした。1人の医師が2ブースずつ担当し、ブース間を移動して予診。予診が終わった人から各ブースにいる看護師らが注射する流れにした。予診票は別の看護師が記入漏れなどを事前にチェックし、予診時間の短縮を図った。
会場で接種した男性(77)は、副反応に備える健康観察も含めて20分余りで終えた。「スムーズで密にもならず、安心して受けることができた」と話した。(三浦惇平、小川裕介)
拡大するキョードー大阪がかかわった兵庫県宍粟市の集団接種会場の運営シミュレーション=同市、キョードー大阪提供
アイドル握手会ノウハウも
イベント業の「キョードー大阪」(大阪市)は兵庫県尼崎市や同県宍粟(しそう)市の集団接種会場の運営を担う。AKB48グループなど1日に1万人以上の客を受け入れた「アイドルの握手会」を担ってきた企業だ。
握手会では、アイドルと接す…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル