「自然の中」というカヌー競技の誤解
「カヌー競技の魅力を教えてください」と言われると、ちょっと困ってしまうことがあります。よく聞くのが「自然と一体になること」なのですが……実は僕はあんまり。虫とか好きじゃないので(苦笑)。僕はカヌーのことが、あくまでレース競技として好きなんです。関わる要素は人の力と水の流れだけ。それぞれ計り知れないものなのに、レースをしてみると、結果のタイムはコンマの差になる。こんな競技、他にはなかなかありません。 簡単に僕の競技、カヌー・スラロームの説明をしておくと、コースは、全長250~400m。コース上には2本のポールでできたゲート(旗門)が18~25個あります。ゲートは通過順序が決められており、上流から下流に通過するダウンゲートと、下流側から上流側に通過するアップゲートがあります。スタートからゴールまでの所要タイムと、各ゲートを通過する際のペナルティータイム(ポールへの接触やゲーツ未通過)によって勝敗が決定します。 誤解されがちなこととして、カヌー・スラローム競技は人工コースで開催されるため、自然の川を相手にするわけではありません。したがって、あまり運不運の要素はない。ただし、人工の流れはあるため、もっとも重要なのは状況判断になります。例えば目の前に大きな波があるとして、その瞬間は上り坂ですが、自分がそこにたどり着く1秒後には下り坂になっている。それぞれ漕ぎ方が異なり、判断を違えれば大きなロスになります。 見どころとしては、やはり激流の中、選手たちが自由自在にカヌーを操るところでしょうか。そして少しマニアックですが、漕ぎ方がそれぞれまったく違う選手たちが、あるポイントでみんな同じ動きをする。コンマの差を追究し続けた結果、レースごとに最適解が生まれるんです。システマチックかつ合理的な頭脳戦で、読みを外した選手はたちまち圏外。そんなヒリヒリした勝負が、僕にとってはカヌー競技の魅力なんです。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース