ブログなどで退職エントリーを公表する人たちは多いが、今年3月に公表された「Google退職します」(https://note.mu/xyx/n/n5d612396ed8f)で言及されていた報酬の話について、やまもといちろう氏が指摘した内容(http://pret.yakan-hiko.com/2019/03/31/yamamoto_190331/)が興味深い。
「Google退職します」では、給与の何割かは親会社であるAlphabet社の制限付き株式ユニットであり、米国の証券会社の口座に付与され、源泉徴収されていないので、否応なく確定申告する必要が出てくることが言及されている。
これに対して、やまもと氏は「海外での報酬を現物株式付与(RSU)にして取得すると、日本の各種社会保険料が調整されず、その分だけ報酬がかさ上げされる」「さらに源泉徴収の対象ではないので正確な収入が日本政府税務部門においては捕捉しづらい」と指摘している。
RSUとはどのようなものなのか。柴田篤税理士に聞いた。
●RSUとはどのようなものか
「RSUとはRestricted Stock Unitの略で譲渡制限付株式のことです。今、A氏が3年後に1,000株もらえる権利を与えられたとします。A氏は3年間働かないともらえません。その間は議決権や配当はありません。
3年後、株価が20,000円になり、20,000円X1,000株を貰います。これは給与所得となります(名古屋地裁H26.5.29)」
給与所得であるなら、源泉徴収されるのか。
「国内で給与所得である以上、通常雇用者は源泉徴収義務者ですので、源泉徴収しなければなりません。あるいは給与所得が2000万円を超えるなど、一定の条件に該当する場合は確定申告しなければなりません。社会保険の計算の算定基礎に組み入れられます。
以降、支払社会保険料として、A氏やA氏の会社のコストの圧迫要因となります。ところが海外でもらうと、源泉徴収されず、確定申告もされず、支払社会保険料の算定基礎からもはずれるケースが生じることがあります。
それがどのような場合なのか、これから説明していきます」
●優秀なメンバーを一定期間、長く引き止める場合に有効
「RSUは会社が急成長でなく株価が徐々に上がり、優秀なA氏をある一定の期間、長らく引き留める場合に有効です。
欧米は能力給で、転職市場も整備されています。該当する仕事に向いていない人は、さっさと転職する一方、向いている人には、インセンティブ報酬を払います。ストック・オプションもその一種です。
それが人間として自分の能力を最大限に発揮でき、幸せであると考えられています。一方、日本は終身雇用で、みんなで助け合いながら経営をしてきましたが、昨今、日本の雇用制度に欧米の考え方が入りこんできました」
●RSUが役員報酬として海外で与えられた場合に起きる問題
結局、RSUを海外で付与すると、「社保逃れ」が起きてしまうのか。
「RSUが海外で給与として与えられた場合、居住地国の税制が適用になります。A氏が日本に原則として183日以上居住していた場合は、租税法上日本の居住者になります。日本の所得税が適用になり、支払社会保険料算定に、はねかえります(国際税務で183日ルールといいます)。
一方、RSUが海外で役員報酬として与えられた場合、183日ルールの適用はありません。役員報酬は、原則として当該法人の居住地国=海外の税制が適用になると、租税条約は定めています。
役員報酬の場合は経営の基盤が当該法人の居住地国=海外にあり、海外が所得の源泉だからです。日本の所得税が適用できず、支払社会保険料の本人負担分は得をします。
また、日本以外は自分で確定申告するケースが多いので、海外税務当局が捕捉できないこともあるでしょう。源泉徴収されていない場合は、居住国で確定申告しなければなりません。場合によっては、日本と海外での、二重課税の問題が生ずるかもしれません」
【取材協力税理士】
柴田篤(しばた あつし)税理士
主に「会計税務・輸出輸入・調査のサポート、金融税務・国際税務」と「相続、跡継ぎにスムーズにつがせたい事業承継、国際相続」を扱う。ばんせい証券グループのばんせい保険[コミュニティ]の社長兼任。「国際ビジネスと金融・保険と税務」のプロ。お気軽に、ご相談ください。
事務所名 :TradeTax国際税務会計事務所
事務所URL:https://japan-jil.weebly.com/
Source : 国内 – Yahoo!ニュース