戸田拓
過疎、少子化、そしてコロナ禍――。北海道北部の町で吹奏楽に励む中学生たちは、困難があったからこそ、1千キロ以上離れた東京の作曲家とネットでつながれた。教えを仰いだ成果を存分に表現する時がやってきた。
天塩町立天塩中学校吹奏楽部(19人)は27日、札幌市で開かれる北海道吹奏楽コンクールの中学C部門(25人以下)に留萌地区代表として出る。作曲家片岡寛晶さん(38)の「マカーム・ダンス ~ウインド・アンサンブルのために」を演奏する。
天塩中吹奏楽部と片岡さんを結びつけたのは、ソフトバンクが提供するサービス「スマートコーチ」。スマホやタブレットにアプリをインストールして、遠隔地にいる指導者から動画やチャットを通じた助言を得られる仕組みだ。
天塩町では2017年12月に導入し、野球やバレーボールなどのスポーツ部で利用してきた。コロナ禍のため全員練習が難しくなっていた吹奏楽部は、町教育委員会の勧めで今年になって使い始めた。
片岡さんに指導を依頼したのは5月。19年から顧問を務める杉山早紀先生(25)が、タブレットのカメラでパート練習や合奏を撮影した動画を片岡さんに送る。片岡さんが東京・練馬の自宅で旋律を歌ったりピアノを弾いたりしながら、「古い中東の音階から発想した」という曲の勘所を動画に収め、返信する。そんなやりとりが繰り返された。
「作曲家から直接、思いを聞けたのは貴重な体験だった」と杉山先生。片岡さんも「演奏団体との交流は作曲者としても幸せな瞬間。楽譜に書けなかったことも伝えられた」と話す。7月3、4日には、感染対策をした片岡さんが来校し、直接指導した。
スマートコーチを導入した背景について、留萌地区吹奏楽連盟の佐藤遵事務局長は「過疎で少子化が進む地方の吹奏楽部は外部から指導者を呼ぶのが難しく、今回はさらにコロナ禍で練習が困難な状況にあった」と説明する。天塩町教委の藤井勇司生涯学習係長も「専門家による遠隔指導は顧問教師の負担軽減にも有効。地方の生徒らが都会にひけを取らない経験を積めるよう、さらに活用を考えたい」と話す。(戸田拓)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル