聞き手・江畠俊彦
シジュウカラは言葉を話す。動物言語学者の鈴木俊貴さん(39)は、それを初めて科学的に証明した。言葉を持つのは人間だけ――古代以来の「常識」を覆そうと挑んできた成果だ。研究の原点は、長い時間をかけて鳥を観察し続けた森の中にある。シジュウカラと向き合った日々と、これからの計画を語ってもらった。
米学術誌の表紙を飾った
オリンパスの望遠レンズは広角でも撮れ、研究に役立ちます。私が観察するシジュウカラはすばしこく、一瞬の動きを双眼鏡で追うのは難しい。拡大した写真やスローで再生した動画を見返せば、意外なポーズや動作も発見できます。
このレンズでとらえた写真が、2018年1月29日発行の学術誌「米国科学アカデミー紀要」の表紙を飾りました。シジュウカラが警戒した表情で、体をすこし伸ばして地面を見つめる様子です。「ジャージャー」というシジュウカラの鳴き声を聞かせたから。天敵のヘビを意味します。おそらく頭の中でヘビの姿を思い浮かべ、潜んでいそうな場所を探しているのでしょう。実験を積み重ねた結果、シジュウカラは「ジャージャーという鳴き声」と「ヘビという概念」を結びつけている、つまり言葉を持つとしか考えられない。それを初めて明らかにした私の論文が載った号です。
その2年前には鳴き声を組み合わせる文法も見つけていました。「ピーツピ・ヂヂヂ」。ピーツピは「警戒」、ヂヂヂは「集まれ」。警戒して集まれ。小さな鳥をも襲うモズが近づくと、そう鳴いて仲間を呼び、追い払います。語順を逆にすると反応しません。
古代以来、言葉を持つのは人…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル