人気セクシー女優として知られる紗倉まな(26)が初めて純文学に挑んだ「春、死なん」(講談社、1540円)が、2月25日に発売され、大きな注目を浴びている。「老人の性」に迫った表題作と「母の性」を描いた「ははばなれ」の2編は、いずれも語ることがタブーとされているテーマ。そのタブーにあえて足を踏み入れたことに紗倉は「そこを書くことが、私の担っている役割」と考えているという。(高柳 哲人)
「純文学」と「AV」。一見すると全くつながりのなさそうな分野で二刀流の活躍を見せている。映画化もされた「きみの膵臓をたべたい」などで知られる住野よるさんに「小説が本業じゃない方たちの中だと一番すごい」と言わせ、直木賞作家の志茂田景樹さんは「確かな才能と能力を感じさせる」と絶賛。「タレントがエッセーを出して話題になった」というのとは、“次元”が違う。
収録された2編とも、主人公は自身よりもはるかに年上の老人。普段、接することのない世代の心情を描くことは難しかったかと思いきや、「むしろ、すごく書きやすかった」という。
「私が属しているアダルト業界にとって、年配の方というのは遠い存在に思えるかもしれませんが、AVリリースイベントでは、60~80代くらいの方も来てくださります。そんな方たちを見た時に『性欲の処理はどうしているのか、寂しさなどはあるのか?』などという興味を持ち、高齢者の性を文章で伝えられないかと考えたのが、きっかけでもありました」
表題作の「春、死なん」は、平安時代末期の歌人、西行が詠んだ「願わくは 花の下にて 春死なむ そのきさらぎの 望月のころ」から取られている。その西行との出会いは、中学生の頃だったという。
「当時の国語の先生が、『百人一首を暗記しよう』というような古典文学が好きな先生で、この歌もそれで知りました。ただ、明確に一言一句を覚えていた訳ではなかったし、歌の意味も当時はよく分かっていなかったと思います」
そして年月を経て、ふとした機会に、この歌と「再会」をした。
「今回の作品を執筆している時に、一人旅に出掛けたんです。気落ちしていた自分を励ますのが目的だったんですが、旅先でやっていたイベントで、詠まれたのを偶然耳にしました。その瞬間、自分の中に物語が広がっていったところがあって、タイトルにしようと決めたんです」
中学生で西行に興味を持つ…と聞くと「どんな文学少女だったんだろう?」と感じる。ところが「むしろ当時は小説はすごく苦手。作文を書いても先生からはダメ出しをされていた」という。では、どこで純文学と出会ったのだろうか。
「高専に入った時に、友達から文芸誌を勧められたんですが、その理由が『中身に分量(ページ数)があって、コスパがいいから』(笑い)。それで読むようになって興味を持ち始めて。最初に好きになった作家さんは、桜庭一樹さんでした」
ただ、当時は「読むのが好き」なだけだった。そこから「書く」が行為が加わったのは、セクシー女優になったことが大きいという。
「この仕事は自己プロデュースが重要で、SNSの発信とか色々しないといけません。その中で自分を言語化していったら、話すことよりも書くことの方が楽しいというか、(ファンの)声に応えられているような気がしてきたんです。そこから、書くことに苦手意識を感じないようになっていきました」
さらに、自身が「二足のわらじ」を履いているからこそ、書けるものがあるという自負のようなものも感じている。
「私はこれまで、一般的にはタブーと言われるものをそうは思わずに生きてきたところがあります。AVについても、仕事を始めてから『これってタブーなんだ』と感じたくらい。そんな私だからこそ、今回のような高齢者の性、母の性といったタブーをモチーフにした作品を書く役割を持っているんじゃないかと思っています。だから、タブーを窮屈に感じているような人にこの作品を読んでもらえればうれしいですし、そういう作品を描いていきたいですね」
セクシー女優として現在も第一線で活躍すると同時に、過去には歌手としてCDをリリースしたり、大学の特別講義を行うなど、マルチな活動を続けている。そんな紗倉は「作家」という肩書をどのように感じているのか。
「恥ずかしいというか、違う気がしますね。書店に行ってコーナーが設けられているような専業の作家さんは、どれを読んでも面白い。私は短編でもヒーヒー言いながら書いていますし。その意味では、『えろ屋』(紗倉が自称する肩書)として長く続けられればいいかなあ、と」
◆紗倉 まな(さくら・まな)1993年3月23日、千葉県生まれ。26歳。工業高専在学中の2012年、SODクリエイトの専属女優としてAVデビュー。13年、映画「ゴッドタン キス我慢選手権 THE MOVIE」に出演。15年、スカパー!アダルト放送大賞で、史上初の3冠を達成。16年に初の小説「最低。」を発表。同作は17年に瀬々敬久監督で実写映画化され、東京国際映画祭のコンペティション部門に出品される。他の著書に「凹凸」「働くおっぱい」など。
Source : 国内 – Yahoo!ニュース