中沢滋人
ダム湖の水位変化で見え隠れするため、「幻の橋」と呼ばれる北海道上士幌町の旧国鉄士幌線「タウシュベツ川橋梁(きょうりょう)」。大自然の中で朽ちていく古代遺跡のようなたたずまいが、観光客を引きつける。その橋に、今春、比較的大きな壁の崩落が3カ所で確認された。「11連アーチがつながって見られるのも今年が最後」と言われて久しいが、地元関係者は、いよいよ「その時」の近さを感じている。
NPO法人「ひがし大雪自然ガイドセンター」の河田充代表(63)によると、今年の4月、林道開通直前に、計3カ所の壁面が大規模に崩れているのが確認されたという。山側から見て、左から1番目と7番目の橋脚上部、湖側から見て右から5番目の橋脚上部が今年崩れた場所だ。コンクリート片は2~4メートルの大きさだった。
5月10日、ガイドセンターの現地ツアーに参加した。通行制限がかかっている林道を通り、糠平湖の湖畔に出ると、古代ローマの水道橋遺跡のような構造物がたたずむ。
山側から見ると、10本ある橋脚のうち、6カ所の上部がV字状に大きく崩れ、下にコンクリート壁や内部の石が積み重なっている。
11連のアーチは維持しているが、かろうじて、アーチ曲線部の薄い板状のコンクリートだけでつながっている箇所もある。コンクリートの壁が浮き上がっている所や、至る所に走る亀裂に、「その時」が近いことを感じさせた。
この橋の壁が最初に大きく崩れたのは2003年。このときは十勝沖地震が原因だった。それ以降は17年2カ所、20年2カ所、21年1カ所と自然に崩れているが、いずれも4月に発生している。橋に染みこんだ水が、冬季に凍結して膨張するためコンクリートの劣化が進行。雪が解けた春に、強度を保つことが出来ず一気に崩れるとみられる。1カ月に3カ所も崩落したのは今年が初めてという。(中沢滋人)
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル