着物を着て、墨をすって筆で字を書き、仏壇に手を合わせる――。
伝統的な生活様式が過去のものとなりつつある今、古くから伝わる原材料や技法を継承する「伝統的工芸品」作りに携わる従事者数や、その生産額は昭和50年代をピークに衰退を続けている。
最近では、持続可能な開発目標(SDGs)の観点から見直されたり、外国人観光客が増えたことによる需要の高まりがあったりと、日本の伝統的なものへの「追い風」はあったものの、新型コロナウイルス感染拡大の影響などを受け、厳しい状況がまだ続いている。
そんな中でも、磨き抜かれた技術を持つ職人らが復活をかけて始めた新たな試みを、京都の町で探してみた。
提灯の伝統、新しいカタチで
1800年ごろに創業したという京提灯(ちょうちん)の老舗工房・小嶋商店(京都市東山区)。京都・南座のシンボルとなっている大きな赤提灯や寺社、商業施設などの提灯を手がけている。
小嶋商店の提灯の製法は京都伝統の「地張り式」と呼ばれ、割った竹で輪をつくり、糸で結んで骨を組み、厚い和紙を貼っている。一般的な竹ひごをらせん状に巻く「巻骨(まきぼね)式」より丈夫だ。
9代目の小嶋護(まもる)さん(61)の代まで、職人は伝統の技を守ることに専念し、前に出ることはなかった。しかし、提灯の需要は減る一方。10代目の長男、小嶋俊(しゅん)さん(37)が働き始めた頃には、下請け仕事が中心で食べていくのがやっとだった。
危機感を抱いた俊さんと次男の諒(りょう)さん(33)は、店の伝統技術を直接、消費者に伝えることはできないかと独自のブランドを立ち上げた。ろうそくではなくLEDを使った、伝統工芸品の持つ美しさと使い勝手を兼ね備えた内装品としての提灯に焦点を当てて、お客さんの希望するデザインに寄り添うことで販路拡大をはかった。
その斬新な提灯作りが話題となり、兄弟の友人で海外での勤務経験があった武田真哉さん(41)が新たに加わったこともあり、次々とホテルや飲食店、海外の住宅設計事務所などから直接注文が入るようになった。
昨年には東京・渋谷にあるバスケットボールグッズのセレクトショップから、卵形の提灯の中に人が入って座れる椅子、チェアランタンの制作を受注した。高さ約150センチ、幅約140センチの巨大な提灯に、店名の「TOKYO23」とバスケットボールからデザイナーがイメージした図案を、護さんが筆で描いた。
諒さんは、さらに提灯を広く知ってもらうため、提灯の形をしたカバンや作品をプリントしたTシャツも作って販売している。
「これからは今まで誰もやってこなかった見せ方や使い方を考えて、提灯の需要を増やしていきたい」
漆塗りのサーフボード
「太陽と水と木が融合した美しさは最高です」
そう話すのは明治42年創業の「堤淺吉(あさきち)漆店」(京都市下京区)専務の堤卓也さん(44)。趣味のサーフィンと家業の漆という、海と山とのつながりを意識して作ったのが、漆塗りの木製サーフボードだ。
原料となる漆の木は山などに…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル