今春、釣り人の男性がヒグマ襲われて死亡した北海道北部の朱鞠内湖(幌加内町)で13日、イトウ釣りが再開した。湖を管理するNPO法人シュマリナイ湖ワールドセンターなどが専門家の意見や知床などの先進事例を参考に約4カ月かけて独自ルールを作成。安全に絶対はないが、ヒグマ撃退スプレーの携帯など「可能な限りの対策」を施した。
男性が襲われたのは湖北東部の「ナマコ沢」の入り江。同センターのボートで上陸し、1人で湖岸で釣りをしている時に背後から襲われたとみられている。何度もイトウ釣りに訪れており、土地勘もあった。ただヒグマ撃退スプレーは見つかっておらず、携帯していなかった可能性もある。
新たなルールでは、ヒグマ撃退スプレー、クマ鈴、トラブル発生時用のホイッスルや発煙筒、緊急連絡やGPSアプリによる所在確認のためのスマホなどを携行必須の装備品とした。スマホ以外はレンタルを用意。撃退スプレーは飛行機に持ち込めないため、道外のリピーターには買ったスプレーを預かれるようにもした。
ヒグマを寄せ付けないために、カップラーメンも含めて限られた場所以外での調理を禁止した。釣れた魚についても、岸辺に魚のにおいを残してヒグマを誘引しないよう、湖内での撮影やリリースを定めた。「湖内から出さないことでイトウへのダメージも少なくなる」という。
朱鞠内湖のイトウ釣りは大自然に包まれながらさおを振るのが醍醐(だいご)味だが、前浜やキャンプ場以外での単独での釣りを原則禁止とした。夜明けや日没前後の「朝まずめ」「夕まずめ」は釣果が上がるが、この時間帯はヒグマも活動する時間帯。釣り人同士が適切な距離を保ち、互いに死角となる背後を確認しあうことがヒグマ対策につながる。
この日は平日で朝方にかけて雨が降ったが、夜明けを待ちかねたように釣り人が訪れ、さおを振っていた。代休を取って来た近隣の男性(37)は「朝の気温が20度ではイトウも深みでじっとしていますよ。釣果なし。わかっていても初日だから。新ルールは煩わしさはあるけど安全を考えればやむを得ないですね」と話していた。
朱鞠内湖のイトウ釣りは10月からが後半戦。同センター理事長で朱鞠内湖淡水漁協の組合長代理も務める中野信之さん(48)は「ヒグマはどこにでもおり、安全に絶対はないが、十分な対策とルールの順守が釣り人の命を守ることであり、朱鞠内湖という貴重なフィールドを守ることになる」と理解を求めている。(奈良山雅俊)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル