義務教育を十分に受けられなかった人の学び直しの場とされる夜間中学に、不登校の現役中学生も受け入れる。そんな全国初の試みが、香川県三豊市が今春開設した夜間中学で始まろうとしている。その意義と課題について、三豊の夜間中学の開設準備から関わり、現在は教諭として勤める城之内庸仁(のぶひと)さん(45)に話を聞いた。
今春開設、学びを取り戻す場
――4月に開校した三豊市立高瀬中学校夜間学級は、学齢期を過ぎた16歳から85歳の9人でスタートしました。
夜間中学に通う人の背景はそれぞれですが、ここでは、病気や不登校などで十分に中学に通えないまま形式的に卒業証書をもらった「形式卒業者」が多いです。日本語の読み書きの習得などをめざす外国籍の方も2人います。平日の週5日、夕方に授業が始まり、終業は午後9時ごろ。5人は市外から通っており、バスや電車の時刻にあわせて急いで帰る人もいます。
読み書きや計算が十分にできない人は日本にもういないかのように思われていますが、身近にいます。そのことで人にさげすまれたり、仕事がうまくいかなかったり。深く傷ついた経験をもつ人が、学びを取り戻すことで自分を取り戻そうとしている。そんな瞬間に立ち会っている日々です。
しろのうち・のぶひと 広島県生まれ。一般社団法人「岡山に夜間中学校をつくる会」理事長。岡山市内の中学校の英語教諭時代、不登校のまま卒業した教え子に就職に困っていることを打ち明けられ、2017年に自主夜間中学を始める。多くのボランティアに支えられ、登録生徒数は270人を超え、岡山市内で週3日開く授業では40~70人ほどに学びを提供している。昨年、三豊の夜間中学設置に向けた検討委員会の副委員長を務め、岡山市教育委員会から香川県教委への人事交流で、今年4月に三豊の夜間学級に着任した。
多様性のなかで過ごす意義
――学齢期の不登校生徒を受け入れるために必要な「不登校特例校」の指定を全国の公立夜間中学で初めて受けました。不登校の中学生は増え続け、最新の2020年度の文部科学省の調査では全国で13万人を超えています。
不登校の生徒の学びを支える場所としては、自治体が設置する教育支援センター(適応指導教室)や、民間のフリースクールなどがあります。その選択肢の一つとして夜間中学があっていいと思うのです。
岡山市内で運営する自主夜間中学で多くの不登校の生徒に接してきましたが、学ぶ意欲だけでなく、生きる力も弱っている子が少なくないと感じます。そんな生徒たちが、異なる世代や国籍の人がいる夜間中学で過ごす意義は大きい。80歳になっても学ぶことをあきらめない姿が目の前にあることは、心を揺さぶることでしょう。
朝起きられなくても、通えればいい
――自律神経の乱れから血の巡りが悪くなり、朝起きられなくなる「起立性調節障害」の生徒の受け皿としても期待されています。
起立性調節障害は思春期に多い病気で、本人の意思ではどうにもならないものですが、なまけ病などと誤解されて苦しむこともあります。昼夜逆転して学校に通えないまま3年が過ぎてしまったら、また形式卒業者を生んでしまいます。「こんばんは」から始まっても、本人が元気で通えるならそれでいい。選択肢が広がることで、形式卒業者を増やさない、という意義もあると思います。
――逆に、今まで夜間中学で…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル