自治体による保育園への「実地検査」(指導監査)を受け、過去3年間、保育士の配置基準を満たしていないとして「文書指摘」を受けた数が852件にのぼっていたことが、朝日新聞による全国調査でわかった。
実地検査は、保育園が適切に運営されているか、年に1回以上、自治体職員が現場を確認することが児童福祉法施行令で義務づけられている。朝日新聞は政令指定市、東京23区、昨年4月時点で待機児童が50人以上だった計62自治体に、過去3年度での監査の結果、問題が見つかった園に示される「文書指摘」の数などを聞いた。東京都大田区、目黒区、渋谷区は、全てもしくは一部を回答しなかった。
実地検査を踏まえて園側に示される文書指摘の数は、検査数が減っているにもかかわらず高止まりしていた。2019年度が3578件、20年度が2281件、21年度が2599件だった。
子どもの安全に関わる指摘目立つ
文書指摘では、子どもの安全に関わる内容も目立つ。
特に多かったのが、保育士の配置不足だ。1人の保育士が何人の子どもを見るかの「配置基準」を満たさないケースが3年間で852件にのぼっていた。週末や朝、夕方などに保育士配置が足りていない園が多くあった。
配置基準をめぐっては、「保育士1人が4、5歳児の園児30人を見る」などと、子どもの安全を十分守れないような低い基準が問題視されている。保育士1人あたりがみる幼児の数は、先進国平均の約2倍にのぼる。
だが、今回のアンケートでは、その最低基準すら満たしていない園があることが明らかになった。
また、子どもの死亡や30日以上の治療が必要な「重大事故」について、国は発生当日か翌日に報告をすることを義務づけているが、その報告がなかったり、事故につながるような事案があったりした指摘は、3年間で計207件にのぼった。
具体的には、「重大事故発生時の報告漏れ」(札幌市、明石市など)、「窒息事故につながる食材を使っていた」(東京都板橋区)、「水遊び時の監視体制を整備していない」(東京都練馬区)などがあった。
窒息事故につながるおそれが高く、国が事故防止のために定めるガイドラインで「避けるべき」とされる「うつぶせ寝」についての指摘も3年間で計43件あった。
「うつぶせ寝をしている子どもが複数名おり、保育者が(体勢を)直す様子がなかった」(東京都足立区)、「うつぶせの姿勢で顔を横に向け、口もとに布団がたわんでいる状態の子どもがいた」(兵庫県西宮市)などがあった。
一方、うつぶせ寝については「口頭で指摘する対応を行っている」という自治体も複数あり、この数字以上に深刻な実態がある可能性もある。
「不適切な保育が増えている可能性」
京都大の柴田悠准教授(社会学)は「不適切な保育が増えている可能性がある」と指摘。配置基準についての文書指摘の多さが目立つことについて、「もともとの配置基準の低さが指摘されるなか、本来はゼロでなければならないのに非常に多い」と言う。
「重大事故のリスクを高める『詰め込み保育』が起こってしまっている。現状をより丁寧に把握し、抜本的に対策することが必要だ」(中井なつみ)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル