50代の今でさえ、毎朝、職場に向かうのがおっくうになることがある。
就職から定年退職まで、約40年働き続けたとして、その後はできればダラダラと過ごしたい。私と同様、そう考えている中高年は多いだろう。
だが、今の日本では、高齢になっても働き続けることが、いわば「時代の要請」になりつつあるようだ。超高齢化と人口減少が待ち構えている日本社会にとって、高齢者は最後に残された「資源」だという考え方もある。
そう言われても、人生の残り時間、いったい何を目的に働けばいいのか。そして、いつまで働き続けるべきなのか。
高齢になっても働くのが当たり前――。そんな時代の足音がひたひたと聞こえます。国全体を眺めても、人口減少による現役世代の激減を前に、政府は「一億総活躍」という言葉で高齢層を労働力に繰り入れようとしています。私たちの人生から「老後」という時間が消えていくのでしょうか。「老後レス時代」の生き方を考えます。
そんな疑問を胸に、65歳以降になっても仕事を続けている人たちに会いに行くことにした。「老後レス」を実践する人生の先輩たちにである。
千葉県柏市の鎌田勝治さんは2年前、76歳の時に、市内の特別養護老人ホーム「八幡苑」に就職したという。
特養ホームを訪ねると、鎌田さんは高齢女性が座ったままの車いすに、手押しポンプで空気を入れていた。それが終わると、ぞうきんで窓を拭き、モップで床掃除。背筋をぴんと伸ばし、大股ですたすたと歩く姿は、車いすの女性と同世代とは思えない。
週に2~3日ほど通い、施設の掃除や洗車、草刈り、蛍光灯の交換、近くの病院への送迎など、雑用を何でもこなす。月に5、6万円ほどの給与から孫にお小遣いをやるのが喜びの一つだと話してくれた。
「仕事は楽しいねえ。人と接して仲良くするというのがいい。70歳を過ぎて、ようやく気付いたよ」
鎌田さんは、16歳から靴職人として働いた。有名メーカーで一足3万円以上の靴を1日25足、50年間作り続けた。定年後も関連企業で働いたが、70代半ばで退職した。
生活費に困っているわけではない。それなのに、なぜ働くことを選んだのか。
「なんだかもやもやして、体がなまっちまう。今までと勝手が違い、戸惑っちゃってね」
仕事をしない生活は退屈だったという。気の張りがなく、酒ばかり飲んでいたのだとか。
雇う側はどうなのだろう。78歳といえば、いわゆる後期高齢者に属する。そんな人が、同世代を介護する施設で働いているというのも不思議な感じがする。だが、施設にとっては貴重な働き手なのだという。
「実は、入所者には、年齢が近い人の方が話が合って喜ばれるんです。認知症の人の振る舞いや放言にも、かっとせずにうまく対応してくれますし。やはり、人生経験が豊富な人は違います」と同施設の総務を担当する中村栄作さん(45)は話す。親子ほども年齢が違うが、鎌田さんの相談役だ。
「そう、中村さんがね、家にいても余計なことを考えるだけだから、うちで働いていいよと言ってくれたんです」
話を継いだ鎌田さんは、こちらが予想もしていなかったことを口にし始めた。
「実は今年の2月、精密検査で…
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Source : 社会 – 朝日新聞デジタル