豪雨が頻発するなか、水害に強い住宅づくりを目指す動きが盛んになってきた。水の浸入を防ぎ、もし被災しても早く復旧できるように設計を工夫する。
「耐震」や「耐火」などと並んで、「耐水」も新たな建築のキーワードに加わりつつある。
いったん浸水すれば、家の中は泥だらけ。木材や断熱材は水を含み、放置するとカビが発生、家も傷んでしまう。床や壁をはがして乾燥、修復し、家財を買い直して元の生活を取り戻すには、数百万円以上の費用と数カ月単位の時間がかかることも多い。
2018年7月の西日本豪雨など、各地で相次いだ被害を目の当たりにした専門家や業者の間で、対策を検討する機運が高まった。
家ごと浮かせたり、あえて水を取り込んだりする手法もある。住宅メーカーの一条工務店(東京都)が20年から発売を始めた「耐水害住宅」は、その先駆的な例として知られる。各地のショールームに実物大の体験施設を設けてお客さんに浮上を体験してもらい、すでに2900件以上の申し込みを受けたという。
家ごと浮かせるとは大胆なアイデアにも思えるが、開発に携わった黒田哲也さんは「様々な方法を試し、浮かす方法しか残らなかった」と説明する。
まるで船? 家ごと浮上を体験
どういうことなのか。実際に浮上を体験してみた。
体験施設の建物は平屋のワンルームで、コンクリート製の大型水槽の中に据えてある。スイッチを入れると、隣の水槽から勢いよく水が流れ込んできた。外の水位がじわじわと上がっていく様子が窓越しに見える。
床を透明にした部分から床下を見ると、水は入ってきていない。その工夫の一つが、浸入経路になる床下換気口の構造だ。
換気口の内側にボックスを据え付け、中に板状の「浮き」を入れてある。換気口から水が入ってくると浮きが上昇し、ボックス上部にある空気の通り道を密閉する仕組みになっている。
4分もすると、窓の高さまで水に満たされてきた。普通なら床上浸水する高さだが、どこからも漏れてこない。
窓や玄関ドアは特殊なパッキンを取り付けて水密化してある。ガラスは、水圧や漂流物の衝突で破られないように3重構造。ドアの鍵穴は高い位置に取り付けた。
下水の配管には、逆流による浸水を防ぐための弁がついている。外壁には防水シートを貼って基礎との間のすき間をふさぐなど、様々な浸入経路に対策を施しているという。
「もう浮き始めていますよ」。室内にある傾斜計の表示を見ると、さっきまで0のままだった数字に変化が表れ始めていた。ボタンを押してから7分ほど。水深は130センチに達していた。
言われてみると、停泊中の船に乗ったときのように、わずかに床が動いている感覚がある。建物の片側に社員が移動すると、傾きも大きくなっていくのが見た目にもわかった。
浮かせる方式を採ったのは…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル