【連載】吃音芸人 炎上騒動と“話す”ということ③
先輩芸人チャンス大城からの誘い
「明後日 木曜 夜 あいてない?」「たのむ あいててくれたら嬉(うれ)しい」
あの騒ぎは、芸人のチャンス大城から後輩芸人のインタレスティングたけし(以下、インたけ)への、こんなLINEの飲み会の誘いから始まった。
チャンス大城は、テレビやユーチューブなどで人気の芸人だ。壮絶な半生をまとめた自伝的著書「僕の心臓は右にある」は発売後、即重版した。
そんなチャンス大城とインたけが初めて出会ったのは16年ほど前、お互い売れない「地下芸人」時代だった。ライブの帰り際、チャンス大城がインたけに「おもしろかったよ」と言ってくれたのが付き合いの始まりだ。
インたけが芸能事務所に所属していたころ、事務所から「(話す際に言葉が詰まる)吃音(きつおん)を治さないとテレビに出られない」と言われ、病院を紹介されたことがある。その際、チャンス大城は「特徴なんだから治さなくてもいいよ。逆に武器にしろ」と励ました。
チャンス大城
1975年生まれ。89年にお笑い養成所に入り、今は吉本興業に所属しテレビなどで活躍。自らの半生を記した実話本「僕の心臓は右にある」が昨年発売され、大人気のため発売後に即重版が決定した。
チャンス大城のユーチューブチャンネルでは、インたけが度々出演する。有名ラーメン店に一緒に行ったエピソードは有名だ。「野菜まし」と言えばもやしなどを多めに入れてくれるのだが、インたけが言葉が詰まり「ましましましまし」と連呼してしまい、大量の野菜が入れられたことがあるという。
そんな関係だから、チャンス大城の急な誘いを、インたけは快諾した。
待ち合わせ場所は、東京都台東区にある居酒屋だった。個室もあると知り、インたけは「チャンスさんも人気が出て金持ちになったのかな」と想像した。
店で対面に座ると、インたけは「めめめ面談みたい」とおどけるなど笑いながら会話を楽しんでいた。
すると、チャンス大城がカバンからおもむろにネクタイを取り出し、インたけにネクタイを締められるか聞いた。ネクタイを自分で結んだことがないインたけは、うまくできない。すると、チャンス大城が「ネクタイを締められないような人間は帰れ!」と怒り出した。「こんなことで怒ったことないのに」とインたけは困惑し、笑顔が消えた。正座し、ひざに手を置き神妙な面持ちで、チャンス大城の話を聞いた。さらに「お前くさいぞ。うんこしたろ」「帰れ!」とチャンス大城が怒鳴る。インたけは「もう帰らないとダメかな」と思い、個室を出たところで、番組スタッフから「お疲れ様でした」とどっきりだと伝えられた。人気番組の「水曜日のダウンタウン」だと告げられ、驚き、そして、喜んだ。
帰り道、人気番組に出た驚きと喜びで顔が自然とにやけてきた。帰宅すると真っ先に母親に伝えた。喜んでくれた。しかし、企画の内容は放映前は誰にも話せない。誰かに自慢したくてうずうずした。
人気番組に出演「うれしかった」
テレビは母親と一緒に見た。どっきりの様子が流れ、インたけの話し方を見ていたスタジオの芸人は「個性強いね」「やばいやつやん」などと笑いが起きた。ナレーションでも「さすがはチャンスの後輩 パンチの効いた男」と説明。
インたけと母親は番組を見て大笑いした。「もっとリアクションしなきゃ」と母親から「ダメ出し」ももらった。
幸せな瞬間だった。これからテレビの出演依頼が来るかもと期待した。
しかし、20日ほどたった後…
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル