図書館の蔵書の電子データを利用者のパソコンやスマートフォンに送れるようにする著作権法の改正を、文化庁が検討している。9日にも同庁の文化審議会が報告書をまとめる。法改正が実現すれば、絶版などで入手が難しい書籍に加え、市場に流通している書籍も内容の一部を手元の端末で読めるようになる。
著作権法は、小説などの作品をネット送信する際に作家らの許可を取ることを義務づけている。ただ、絶版本など手に入れにくい書籍の電子データは、国立国会図書館から各地の図書館の端末へ送信することが認められている。
報告書案によると、著作権のうち、作家らが作品のネット送信をコントロールできる権利である「公衆送信権」を弱めることで、許可なしに図書館が利用者にデータを送れるようにする。
図書館の蔵書は、内容の一部(単行本の場合は著作物全体の半分まで)を複写するサービスを、データ送信に広げる。現在は館内での手渡しや郵送など、紙での提供に限られるが、ファクスに加えてメールでデータを送ることも認め、利用者の端末で読めるようにする。絶版本などは国会図書館から利用者に直接送信できるようにする。いずれの場合もデータの印字が可能だ。
ただ、複写サービスの対象には流通している書籍も含むため、データ送信によって作家や出版社ら権利者に不利益が生じる恐れがある。報告書案では、権利者に補償金を支払うよう図書館を設置する自治体などに義務づけるとしている。
今春以降、新型コロナウイルスの感染拡大で国会図書館や公共図書館の休館が相次ぎ、研究者などからはネット経由で蔵書に直接アクセスしたいという声が高まった。こうした声を受け、文化庁はこの夏から文化審議会の作業部会で検討を重ねてきた。
文化庁は改正案を来年の通常国会に提出する方針だ。ただ、現在も売られている書籍のデータ送信を解禁することには大手出版社から反発の声も上がっている。(丸山ひかり、赤田康和)
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル