企業の間で流行しているといわれる「固定残業代」。高い基本給に釣られて入社したら大変な目にあったという声も聞く。ブラック企業被害対策弁護団事務局長で、新刊『人間使い捨て国家』(角川新書)を発表した弁護士の明石順平氏が、凄まじいコストカット効果と過酷な労働実態を裁判例とともに明らかにする。
■基本給「実質たったの12万円」
「新卒者の基本給19万4500円」。ある企業の求人欄を見てあなたは妥当な額だと思ったかもしれない。だがもし、うち7万1300円が「80時間分の」固定残業代として含まれていたら。しかも、労働時間が80時間に満たない場合は不足分が差し引かれてしまうと聞いたら――。こんな企業があるはずがないと思うだろう。
だがこれは、ある飲食店チェーンで実際に起きた過労死事件の話だ(2007年発生)。このような異常な労働条件のもと、新卒の正社員(当時24歳)が、月平均110時間を超える残業の結果、入社後わずか4か月にして心機能不全で死亡したのである。
実は今も、固定残業代制度が企業の間で流行している。
固定残業代とは、一定の決まった金額を、残業の有無にかかわらず、残業代として支払うというものだ。これは大きく分けて次の2種類があると言われている。
①組み込み型
基本給や歩合給の中に残業代を組み入れてしまうというもの。「歩合給に残業代が含まれる」「基本給30万円、50時間分の残業代を含む」「基本給30万円、そのうち3割は残業代」等。
②手当型
基本給とは別に、例えば「営業手当」等の名目で一定額を支払うというもの。
■広まってしまった「負の判例」
固定残業代について先例となる判例がある。タクシー運転手の残業代について争われた高知県観光事件(最高裁平成6年6月13日判決)だ。
この事件では、会社側は「歩合給の中に残業代が含まれている」と主張した。しかし、歩合給のうち、残業代とそうでない部分の区別が全然つかないため、残業代が本当に払われているかどうか分からなかった。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース