「大丈夫ですか、あとちょっとですよ!」
大阪港に力強い声が響く。人が海に落ちた想定で7月にあった救助訓練。大阪府警の船戸祐里さん(30)は船を操作しながら、常に落水者役を励ましていた。
水の都・大阪の海と川を見回り、事故や犯罪があれば警察官と共に駆けつける。水上のパトカーといわれる警備艇を操る技術職の「船舶職員」だ。
天気によって異なる波の高さやうねりに合わせて操縦し、3年間無事故を達成。この春から船長も務めるようになった。大阪府警初の「女性船長」という。
「船戸」という名字ながら、両親は船とまったく関係のない仕事をしていた。ただ、幼いときから毎年のように海水浴場に連れて行ってもらい、海が大好きに。次第に「海の仕事がしたい」と思うようになった。
高校卒業後の進路に選んだのは海上保安庁。海の安全を守る姿に「かっこいい」と憧れた。
海上保安学校に約1年通った後、北海道周辺を担当する第一管区に配属された。そこで救助の現場や訓練を共にしたのが警察だった。それまで「海」のイメージが全く無かった分、深く印象に残った。
助かるかどうかの瀬戸際を知っているからこそ
入庁から約5年経った2016年末、故郷で仕事がしたいと退職。大阪府警が船舶職員を募集していると知り、応募した。18年春から大阪水上署で働き始め、4年目になる。
約40人いる船舶職員のうち、女性は一人きり。「『警察にもこんな仕事がある』『女性にもできる』と知ってもらえたら」
北は大阪市、南は岬町までの海域が管轄だ。木津川や安治川、淀川の河口付近など、大阪市内の川や運河も担当する。前職の海保は沖合には出るが、河川は担当しない。人々の暮らしをより身近に感じるという。
18年には「淀川に男性が浮いている」と通報を受け、現場に急行。60代男性を引き揚げ、命を救うことができた。今年6月に高槻市の淀川で児童が行方不明になったときは、翌朝に消防が遺体を発見するまで捜索にあたった。
「命が救えた時のことは本当に忘れられない。残念ながら亡くなっているとわかっても、『ご家族にお返しできた』と思えるのがやりがいです」
命が助かるかどうかの瀬戸際を知っているからこそ、船や水上バイクに乗るときは救命胴衣をつけてほしいと強く呼びかける。「救命胴衣さえあれば生存率が4倍にもなる。海や川で遊ぶ機会が多い夏こそ意識してほしい」(新谷千布美)
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ふなと・ゆり 1991年大阪府吹田市生まれ、同府和泉市育ち。船舶免許と航海士の資格を持つ。大阪府警には警備艇が12艇あり、出動のたびに交代で乗船。経験豊富な職員が船長を務めることになっており、今春から任されている。船の機械についても精通したいと機関士の資格取得を目指して勉強中。
Source : 社会 – 朝日新聞デジタル