病気や事故などで子供を亡くした家族の自助グループ「小さないのち」(兵庫県)が発足20年を迎えた。悲嘆に暮れる家族に寄り添う医療者が増えてほしいと、遺族の思いや経験を伝える講演活動を続けており、会員6人と医療者との交流の記録が書籍『家族にとってのグリーフケア-医療の現場から考える』(彩流社)として出版された。編著者の同グループ代表、坂下ひろこさん(58)=同県尼崎市=は「闘病中の温かい配慮が、最愛のわが子を失い悲しみに沈む心を支えてくれると知ってほしい」と話す。(木ノ下めぐみ)
同グループは、1歳だった長女のあゆみちゃんをインフルエンザ脳症で亡くした坂下さんが、同じ思いを抱える親たちと平成11年3月に立ち上げた。「元気だった子供を突然失い、遺族は孤独と向き合う暮らしを余儀なくされる。そんな親たちが出会い、気持ちを分かち合える場を作りたい」との思いで活動を続け、会員は100人を超える。
発足20年を記念して出版した書籍では、わが子や妹を亡くした母親や姉の6人が発病からの経緯やその時々の気持ちをつづっている。
生後5カ月の長男を心内膜床欠損症という心臓病で亡くし、その後生まれた次男も同じ病気にかかった母親は、長男が入院した際の主治医の対応が高圧的で説明にも質問を差し挟めず、不安が募ったと振り返る。検査や手術の日程が何度も延期され、「予定通りに手術が行われていたら助かったのでは」と悔やみ、病院を選んだ自分を責め続けた。
一方、次男が入院した別の病院では、説明を理解しやすいように医師が図で示すなどの配慮をしてくれ、予定が変更されることもなかった。「先生の言うことなら間違いない」と信頼できたという。次男は退院できたが、「長男に会いたい想いは薄れることはない」と記述。家族の悲嘆は子供の死後に始まるのではなく、闘病中からすでに始まり、医療者の細やかな配慮や手を尽くしてくれた医療行為が、家族の心のありようを大きく変えることを体験で示す。
さらに、子供の闘病生活にはさまざまな制限がある。感染症予防などのため病室では幼児の面会は原則禁止されるが、蚊帳の外に置かれがちな幼いきょうだいへのケアが行き届かないことも少なくない。1歳の次男を白血病で亡くした母親は、看護師のちょっとした声かけで長男の疎外感が薄れたと感謝する。
坂下さん自身は、インフルエンザ脳症についてまだほとんど知られていなかった頃に突如、娘を失った。今も鮮明に覚えているのは、搬送先の病院の前で待ち構えていた医療スタッフの姿や表情。「娘を何とか助けようとしてくれているように思えました。私の支えになっています」。そんな経験を踏まえ、28年から会員に呼びかけ、当事者自身の言葉で体験を文章化する作業を進め、医療者向けの講演活動も始めた。
「医療者が真摯に耳を傾け、明日の医療に私たちの経験を生かそうとしてくれる。その共感が家族の救いになると信じている」と坂下さん。「会員の率直な思いがつまった本を、一人でも多くの人に読んでもらえたら」と話している。
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Source : 国内 – Yahoo!ニュース